● プロジェクトメンバー プロフィール
有田 聡
(アリタ サトシ)
研修サービス本部
ラーニングテクノロジーセンタ
センタ長
加藤 絢子
(カトウ アヤコ)
研修サービス本部
ラーニングサポートセンタ
部長代理
花松 甲貴
(ハナマツ コウキ)
研修開発本部
L&D第二部
主任L&Dプランナ
近藤 義広
(コンドウ ヨシヒロ)
研修開発本部
L&D第三部
担当部長
第一部
日立アカデミーでは、2017年から「場所と時間の制約が少ない研修スタイル」の構築を進めていました。対面式の集合研修がスタンダードであった中、Web会議システムなどのテクノロジーを活用して、リモート環境で研修を受講できる仕組みを提供し始めた矢先、新型コロナウイルス感染症が世界的に大流行したのです。
移動の制限やリモートワークの普及など、社会の在り方が加速度的に変わる中、「研修」も早急なオンライン化が求められました。その当時から現在に至るまで、日立アカデミーが提供する研修の在り方やそこから得られる学びの質はどのように進化していったのでしょうか。
コロナ禍で急速に求められた「研修」のオンライン化。
「学びを止めない」をめざし、
迅速な対応を実現。
有田
最初に緊急事態宣言が発令された2020年春は、本来なら新人研修が活発な時期。当時はオンライン配信の実績を持つ企業がまだ少ない状況でしたが、私たちは「学びを止めない」を第一に、それまで対面式だった集合研修のオンライン化を急遽進めました。
有田
その上で私たちはまず社内で「環境変化に対応するためのロードマップ」を作成。そして移行期において確立していったのが、「eラーニング」による事前学習で研修参加時に必要な知識をあらかじめ学び、「バーチャル・クラスルーム(VCR)」でより実践的な知識を習得するという研修スタイルです。2020年度から2021年度の2年間を立ち上げ期・移行期・安定期・拡大期のフェーズにわけ、それぞれに応じた変化を遂げていきました。
加藤
立ち上げ期において注力したのは、「対面研修と同じ学習効果をどのように維持・向上するか」です。立ち上げ期では、それまで実施していた対面での集合研修をそのままオンラインに置き換えるかたちで提供していました。しかし、それでは「長時間のレクチャーは受講者のモチベーションを維持しづらい」「講師や受講者同士の偶発的なコミュニケーションが少ない」「自宅など慣れた場所で受講するため集中しづらい」「受講者の事前知識量によって研修終了後の習熟度に差が出る」などの課題が浮き彫りになりました。それらの解決策を模索しながら、学習効果の向上をめざしていったのです。
加藤
VCRの開催回数を重ねる中でわかってきたのが、「個人ワークやレクチャーを長時間行うよりも、ある程度他者が介入した方がモチベーション維持につながり、学びの質も向上する」ということです。そこで私たちは、各研修のタイムテーブルを大幅に見直しました。
加藤
個人ワークの時間や回数を分散し、グループディスカッションのボリュームの増量に加え、チャット機能によって質疑応答がしやすい状況をつくるなど、受講者の双方向制を高め、モチベーション向上や集中力の維持につながる工夫を加えました。さらに、オンラインへの接続サポート窓口を設置し、安心して学びに集中できる体制も整えていったのです。
第二部
「受講者の深い学びの実現」に向けて、オンライン研修を進化させ続けてきた日立アカデミー。eラーニングによって動画視聴や個人ワークで必要な知識を事前に身につける「インプットの時間」と、VCRによる受講者同士や講師とのディスカッション、マシン演習など「アウトプットの時間」を組み合わせた研修スタイルを「事前学習付VCR」と称し、各研修に取り入れていきました。実際に事前学習付VCRを導入した研修担当者は、受講者の反応や実際の学習効果をどう実感しているのでしょうか。
事例1
事前学習とVCRをシームレスにつなげ、
より高い学びの効果を。
花松
私は企業戦略やマーケティング、財務会計といった分野の研修を主に担当しています。従来の対面研修では9時から17時の研修を2日間連続で行うパターンが主流でしたが、この内容をそのままオンラインに置き換えるだけでは、受講者の集中力が持たないという問題がありました。そこで、eラーニングとVCRを組み合わせたカリキュラムを導入しました。事前学習では専門用語やフレームワークの知識を学んで自分なりの考えをまとめ、VCRでは事前学習で学んだことや考えたことを他の受講者に紹介し、講師からフィードバックをもらう流れを取り入れました。
花松
オンラインでの研修スタイルを構築する中で重視したのが、「事前学習とVCRという2軸の学習スタイルをいかにシームレスにするか」です。そのためにまず、研修全体をひとつのストーリーに仕立てるよう意識しました。事前学習で閲覧する動画の最後には講師が「みなさんとお会いできるのを楽しみにしています」とメッセージを投げかけ、VCR開始時に自己紹介などを行うイントロダクションを設けるなど、受講者のモチベーションを高める設計を心がけました。また、動画に登場する講師には淡々と説明するのではなく役者のように振る舞ったり、VCRの上限を1回4時間にしたりと、最後まで飽きず、集中して受講できる工夫も凝らしています。
花松
VCRに何度も立ち会っていますが、受講者同士のディスカッションの質はかなり高いです。事前学習によって、受講者の知識習得度の差がなくなっているのが大きいでしょうね。「動画のあの場面で話していたことですが」という投げかけに対して「あの場面ですね」といったやり取りもよく目にします。事前学習で得た学びを前提に議論ができるから、自然と話す内容も深まるのだと思います。また、どの研修も雰囲気が明るいのも特徴ですね。自ら積極的に発言し、他者とコミュニケーションを取る受講者がたくさんいます。
加藤
受講者アンケートからも、「VCRでどのような学習をするのか、事前学習の段階でイメージできて良かった」「基礎知識の習得を自分のペースで進められるのでとても良いと感じた」「事前学習のおかげで不明点をなくした上でVCRに取り組めた」などの意見を多数いただいています。
96%の受講者が対面研修と同等かそれ以上の効果を実感。※2021年度
より高い数値を目指して、さらなる改善を。
加藤
私たちは、2021年度下期の目標として「事前学習を通じて受講者間の知識の差をできる限りなくし、かつ全体的な知識レベルを引き上げることで、VCR当日に行うディスカッションの質を向上する」や「受講者の心理的安全性を確保し、VCRで活発に発言できる状況をつくる」を掲げていました。受講者アンケートによると、リアルタイムに講師がレクチャーする研修と比較して、インプットを事前学習で、アウトプットをVCRで組み合わせて提供した研修の理解度が「同等、またはそれ以上である」と回答した受講者は全体の96%。さらに講師10名中6名が、対面での研修と比較して「アウトプットの質が向上している」、4名が「アウトプットの質を維持している」と回答しています。
加藤
一方、受講者の14%が「事前学習を実施していない」という課題もありました。しかし、調査を進めると、事前学習を実施しなかった方の多くが「事前学習があると知らなかった」ことが判明しました。そこで2022年度上半期は、事前学習の実施率向上を目標にサービスの運用面を改善していきました。プッシュ型の案内を送付したり、配置場所を可能な限り1箇所に集約したりと事前学習の周知を徹底しました。その結果、2022年度4月から7月の調査では事前学習を実施しなかった人の割合は全体の4%、「事前学習があると知らなかった」と答えた人は全体のわずか1%にまで減少しました。このように、私たちは課題が浮上するたびに随時改善に努めています。
事例2
オンライン化が難しいとされていたモノづくり研修も、
工夫次第で「より深い学び」に。
近藤
私は主にOT(オペレーションテクノロジー)の研修を担当しています。熱交換器や電気回路、溶接など、モノづくりに関する分野です。OT分野は対面研修でないと知識の習得が難しいと考えられていましたが、こちらもコロナ禍によってオンライン化を余儀なくされました。
近藤
事前学習付VCRに切り替えた直後から、特にVCRで高い学習効果を実感していました。事前学習ではeラーニングを閲覧するのですが、自分が理解できるまで何度も繰り返し閲覧したり、わからないところがあれば一旦停めて、ネットや書籍で調べてから続きを再生したり、ライフスタイルにあわせて何日かにわけて閲覧したりと、受講者のペースで学習できることが奏功したように感じます。eラーニングは研修終了後も一定期間は利用可能なので、「VCRを受講した後に再度eラーニングを観ることで、研修の内容がより深く理解できた」という声も多数届いています。
近藤
VCRを通じた実習面においても、この2年間で学びの質は格段に向上しています。例えば、装置の騒音低減に関する研修では、事前に実習用キットを受講者へ配送し、VCR当日はキットを使用しながら研修を進めていきます。対面式の集合研修では、測定する部屋の騒音(暗騒音)がほとんどゼロの「無響室」と呼ばれる特別な環境で測定を行っていましたが、自宅、事務所など実環境に近い状態で騒音を測定することで、暗騒音補正の方法も学ぶことができるようになりました。よりリアルな学習機会につながっていると感じます。
近藤
また、装置の応力とひずみを評価する研修では、重く大きい装置を用いるのですが、配送が困難なため、受講者には軽量な測定センサーのみを送付します。VCR当日は、講師が測定センサーを試験体に取り付け実測する様子をライブで見ながら、受講者は測定センサーの取り付け作業を疑似体験します。その後、受講者はグループにわかれ、測定センサーの測定結果をもとに議論し考察を深めます。対面での集合研修では、他のグループの議論の内容がある程度伝わってしまい、それによって考察結果が影響されてしまうこともあるのですが、VCRではグループごとに完全に分離した環境を提供できるので、出てくるアイデアは対面の研修よりも多様です。議論に集中でき、かつ他のグループの結果から多くの気づきを得られるのは、オンラインの良さですね。
オンライン研修のさらなる深化を目指して、
日立アカデミーはこれからも進化を遂げる。
加藤
ビジネスマネジメント系をはじめ、IT系やOT系の研修まで幅広くオンラインで提供できている機関は決して多くありません。さらに、受講者から「より深い学びにつながった」と評価されたカリキュラムがここまで充実しているのも、日立アカデミーの強みだと感じています。
花松
ただ、まだまだ改善や進化の余地はたくさんあります。受講者により深い学びを得ていただくのはもちろん、研修で学んだことを日々の業務など実践で発揮できるようもっとプログラムを充実させたいですね。
有田
これまでに日立グループ内の一部の研修では提供していた3DCGやVR等のテクノロジーを活用したコンテンツを拡充し、今後は提供範囲を広げることを視野に入れています。また、これまでの対面の研修では、休憩中など研修の合間に受講者同士や講師と受講者がコミュニケーションを取れていましたが、現状はそうした機会が築きづらい状態です。オンラインでも、そうした人と人のつながりを築きやすい仕組みをぜひ提供していきたいです。そして、現地に出向かなくてもオンライン上で装置の裏側をみたり、疑似的に操作の体験をしたりすることができるような仕組みをつくっていきたいと構想しています。みなさまの学びの深度を増すように、「研修」の質をより一層高め、サービスの提供に努めてまいります。