- 社会・人類の“知恵”や“記憶”を偏らせることに加担していませんか?! -
2026年4月10日‘ひと’とITのコラム

2026年も4月になり、「柔らかくなりました」、いや違いました「紙から土になりました」・・・いやいやこれも違う・・・言いたかったのは「"年度"が変わりました」・・・です。"粘度"や"粘土"ではありません _(._.)_
こういうおやじギャグ(爺ギャグ)は、話し言葉だと"空に消える"ので被害が小さくて済みますが、書いて残ると・・・被害の拡大だけでなく虚しさというしっぺ返しも食らいます、が やめられません、止まりません (-_-;)
さて、最近気になっていることからひとつ小話(噺)を・・・
みなさんは、「法令を守らない自由」って存在すると思いますか?
倫理観とコンプライアンス(法令遵守)の両観点から考えると、あり得ない(あってはならない)ことのように思えます。しかし、こんなケースはどう考えれば良いのか・・・「令和6年版交通安全白書」によると、2023年度の高速道路での交通違反検挙数で最も多かったのは「最高速度違反(スピード違反)」〈261,523件〉でした。ではその次に多かった違反は何だったと思いますか? 〔答え〕⇒「車両通行帯違反」〈47,149件〉です。「これ、どういう違反?」と思った方も多いかもしれません。まず道路の走行方法のおさらいです。「道路が片側2車線以上ある場合、その一番右側の車線は"追い越し車線"、それ以外(左側の車線}が"走行車線"となるので、走行車線を走っているときに前の車を追い越すときだけ一番右側の車線を走る事が出来る」というのが道路交通法の定めです。左側の車線(走行車線)に車がいないにも関わらず、一番右側の車線を走行し続けていると「車両通行帯違反」として検挙されます。さらに、追い越し車線で後方の車に追いつかれたら、速やかに左側の車線(走行車線)に"車線変更"することも道路交通法の「他の車両に追いつかれた車両の義務」で求められています。これらは高速道路だけではなく一般道でも同様ですが、守らずに検挙される人が結構多いということです。ネットやJAF(日本自動車連盟)などから出てくる情報によると、この法令を知らなくて(忘れてしまって?)検挙されたという人も多いようです。みなさん、気をつけましょう。
検挙された人の言い分で多いのが、「私はこの道路の制限速度いっぱいで走っていたので、その私を追い越そうとする車はスピード違反になる。だから私が追い越し車線を走っていても誰の邪魔もしていないはず!」、「スピード違反の車に道を譲らなかったからといって、私が検挙されるのはおかしい!」といった感じのものです。では私が気になっていることとは何か? この違反した人の言い分には、「自分が追い越し車線を制限速度いっぱいで走行していたことは、スピード違反しようとしている人を抑止するという社会貢献ではないのか」というマインドも感じられます。後付けの言い逃れかもしれませんが、たしかに一理あります。しかし、法令上はスピード違反をしようとしている車に対して車線を譲らなければ、違反を防ごうとした方が違反となる。これはスピード違反しようとしている車(人)の"違反する権利"を、法令が守っていることに他なりません(その後スピード違反で検挙されるかどうかは別事案)。すなわち、法令上の「法令を守るかどうかは各人の自由で、それを妨げてはならない」≒「法令を守らない自由は存在する」というように見えてしまいます。これを考えると夜は眠れません(昼間は眠れる(?))・・・悩み多き70歳です! 4月中旬に免許更新に伴う高齢者講習を受けるので、その時にこのモヤモヤをぶつけてみようと思います。
閑話休題・・・
さてみなさん、酢豚はお好きですか? 私はかなり"好物"です。では、酢豚の「あるあるバトル」ですが、パイナップルが入っているのは有りですか? ちょっと古い調査(Jタウンネット〔2017年〕)ですが、全国平均でパイナップル「有り」は62.3%、「無し」が37.7%という結果がありました。なんでも調べる人(組織)がいるものです。この調査で「有り」がほぼ100%だったのが茨城県と鳥取県、佐賀県、逆に「無し」の方が多かった県が新潟県、栃木県、徳島県、島根県、熊本県、鹿児島県でした。しかし少なくとも2017年時点で酢豚にパイナップルを入れる派の方が多かったにもかかわらず、現在いくつかのサイトで「酢豚の作り方」や「酢豚の具材」を検索すると、豚肉、たまねぎ、にんじん、ピーマン、タケノコが出てきますがパイナップルはほとんど出てきません。何故なのか? 私の推測は、酢豚の作り方や材料を紹介するという"平和な情報提供"を行おうとしているときに、わざわざ「あるあるバトル」の火種を提供する必要はない、と考えている人が多いのではないかというものです。ただ、パイナップル有り派からは「なぜ紹介しない」と言われる可能性もありますが、「パイナップルを入れる側」で紹介した場合の反発よりは痛手が少ないようにも思えます。これ以上書くとこのコラムも炎上しそうなのでこの辺で (-_-;)
ここでちょっと想像してみましょう。今はまだパイナップルが酢豚の具材のひとつであることを、多くの人が"知識"や"記憶"として持っています。すなわち今の社会の"知識"や"記憶"です。しかし、この先酢豚という料理に馴染みが無い人が、初めて酢豚を作ろうとして作り方をネットで調べると、パイナップルが出てきません。パイナップル無しの酢豚を気に入ったとすれば、この人はネットで酢豚を紹介するかもしれませんが、その時に当然パイナップルを具材としては入れません。しかも「パイナップルを入れない」という"意志"があるのではなく、そもそもパイナップルが具材として存在していません。このような人が大勢生まれてくることになりますから、数十年後には酢豚の具材からパイナップルが選択の対象でもなく、バトルの対象でもなく、まったく消えていてもおかしくありません。約400年前に中国で生まれた「菠蘿古老肉 (ボールオグーラオロウ) 」という料理が現在の酢豚の原型と言われ、名前の頭に「菠蘿=パイナップル」が付いていたぐらい重要な具材でしたが、数百年(400年+数十年)の時間の流れのなかで、社会の"知識"や"記憶"から消え去ろうとしています。
さてパイナップルが消えてしまった酢豚、今度は子どもに食べさせるためにピーマンを使わないで作ることもあるかもしれません。ピーマンが苦手の子どもは結構多いですから、多くの家庭でピーマン抜きの酢豚が食されていてもおかしくありません。ちなみに余談です。子どもの頃食べにくかったピーマンを、なぜ大人になると食べられるようになるのか・・・? ピーマンの特徴のひとつが"苦み"です。人間にとっての"苦み"は「食べて良いかどうか注意を促す味覚」なので、子どもの頃は食べ慣れていないことから身体が「不安感≒食べたくない」という反応となります。しかし、成長するにつれ「ピーマンを食べても大丈夫」という安心感を持てるようになるので、大人はピーマンを食べられるようになるそうです。ただし私のような例外もいます。ピーマンなどの"苦み系"と、緑茶や紅茶などの"渋み系"は苦手です。70歳になっても"口はお子ちゃま"です。いままで会議などでお茶のペットボトルを用意するときに、私だけわざわざ水のペットボトルにするという手間を多くの方々にお掛けしてきました、反省、スイマセン_(._.)_
さて、ピーマン(+パイナップル)抜きの酢豚が拡がると、そのピーマン(+パイナップル)抜きの酢豚で育った人たちがその作り方をネットにアップするようになります。それを見た(将来の)若い人たちにとって酢豚の原型は「豚肉+たまねぎ+にんじん+タケノコ」です。すると、にんじん嫌いはそこからにんじんを抜いて「豚肉+たまねぎ+たけのこ」となり、それをネットにアップします。それを見た(さらに将来の)若い人たちは、たけのこの入手が難しいので「豚肉とたまねぎ」で酢豚を作るかもしれません。それがネットで多くの人に見られると、元々はパイナップルやピーマン、にんじんが入った彩り豊かな料理だったはずなのですが、いつの間にか酢豚は「豚肉とたまねぎ」の甘酸っぱい料理と認識されるようになるのかもしれません(わたし的にたまねぎまでは抜きたくないので・・・)。また横道に逸れます・・・先ほどの酢豚の原型とされている「菠蘿古老肉」は広東料理系ですが、上海料理系にも「糖醋肉(タンツウロウ)」という酢と砂糖と醤油だけで仕上げる料理があります。この料理の具材は、豚肉のみや豚肉+たまねぎです。
ここまでの酢豚の話は、2021年10月に書いた第42回コラム『【二の噺】「渡る世間はバイアスばかり」:フィルターバブル』で書いた「フィルターバブル」に通じるものがあります。フィルターバブルとは何かを、この時のコラムから引用します。
『「フィルターバブル」とは、『ネット上で泡(バブル)の中に居るように、自分の見たい・関心ある情報しか見えなくなること』を意味する言葉で、2011年にイーライ・パリサーが自らの著書『The Filter Bubble(邦題:閉じこもるインターネット)』で初めて使いました。この「フィルターバブル」、多くのSNSやアプリで、検索履歴などによりユーザの利便性を高める「パーソナライズ」として仕組化されています。この「パーソナライズ」は、当然ながら検索などでの利用回数が増えれば増えるほど精度が高まります。すなわち、自分の関心がある情報、共感できる情報しか触れないという「バブル」の中に閉じ籠もることとなります。』
酢豚の具材で嫌いなものを排除していくと、いつの間にか酢豚がまったく違う料理へと変容しているのに、そのことに誰も気づかない・・・ ある意味時間を掛けた「食のフィルターバブル」です。
さらに酢豚の話は生成AIの活用に対して、我々に警鐘を鳴らしてくれています。
最近、生成AIが業務でも多方面で活用されています。例えば、5種類の資料を読み込んで要旨を作成しなければならないとします。生成AIというアシスタントが存在する現在、生成AIに「この5つの資料の要旨を1ページでまとめて」とでもプロンプトすれば、数秒で要旨を作ってくれます。飛躍的な利便性の高まりと効率化の恩恵を手にすることが出来る時代です。しかし5種類の資料の要旨の作成を生成AIに"丸投げ"すると、「情報の酢豚現象」という重大なインシデントを呼び起こします。
5種類の資料の要旨を作成するということは、生成AIが5種類の膨大な資料内容から自らの"学習"で得た"癖"などの傾向を踏まえて、残す部分と捨てる部分を判断しながら成果物である「要旨」を仕立て上げます。この判断により捨てられる部分は、依頼した人の目に触れることはありませんからまったく無かったことになります(この辺が生成AIで問題となっている「生成物の根拠の不透明性」と「ハルシネーションのリスク」とも関連します)。その「要旨」は、業務の連鎖の中で他の生成AIの"学習"の対象として取り込まれるかもしれません。この繰返しが進むと、パイナップルが消え、ピーマンが消え、にんじんが消え、タケノコが消えた酢豚と同じです。もしかすると容赦なくたまねぎも消えてしまうかもしれません。「具材を偏らされた酢豚」、これが生成AIに頼り過ぎた社会の行き着く先です。しかし「酢豚は豚肉とたまねぎの料理(もしかして豚肉だけの料理)である」と言われても、時代時代でその前を知らなければ当然誰も変化に気づきませんから、だれも困りはしません。
困りはしませんが"人類の知恵"、"人類の記憶"の一部が消えてしまいます。
生成AIに頼ると、人間では処理しきれない多様で膨大な情報を扱うことが可能となりますが、生成AIの中で勝手に"無かったことにする"情報も増えてくるという、だれも気づけないフィルターバブルが作られてしまうのではないかと危惧します。
ではどう生成AIと付き合えば良いのか?
先ほどの「この5つの資料の要旨を1ページでまとめて」的なケースでは、必ず人が5つの資料を読んでから生成AIを使って要旨を作ることが必要なのではないでしょうか。要旨として「活かされた内容(情報)」だけでなく「不要として切り捨てられた内容(情報)」も人の"記憶"として残すことが出来ます。さらに、先述の「生成物の根拠の不透明性」と「ハルシネーションのリスク」対策としても機能しそうです。ただ、生成AI活用が前提の世代もすでに存在しています。その人たちからは「なんでこんなにタイパが悪いことをするの~、信じられな~い?!」とのお叱りに近い声を頂戴しそうです。その場合は、「この5つの資料毎に要旨を各々の資料の1割程度の文字数で作り、さらに5種類の資料全体の要旨を1ページでまとめて」と生成AIに依頼すれば、一応は各資料の1割程度のボリュームでかなり網の目が粗くはなりますが、資料毎の全体像を把握することが出来るのでまだ救いがありそうです。いずれにせよ生成AIの活用が、長い時間軸では「社会・人類の"知恵"や"記憶"を偏らせる状況を作り出す」ということを意識することが必要です。この現象の善悪、正誤の判断を今行うことは出来ません。長い時間が経って初めて判断できるのでしょう。だから、恐ろしいことなのです。
"みなさん、知らずして社会・人類の"知恵"や"記憶"を偏らせることに加担していませんか?!"
4月1日の「エイプリルフール」・・・逆にしませんか? 現代社会で悪戯や嘘などフェイクがない日を探す方が至難の業。将来の子ども達に「昔は今よりも健全な社会だったので、この日だけは悪戯や嘘を許していたんだよ。そんな健全な社会があったことを忘れないようにするために4月1日だけは悪戯や嘘をつかないで、みんながフェイクに怯えず安心して過ごせる日としたんだよ」というふうに伝えるために!
ん? 親父ギャグも悪戯? ・・・そりゃ困る (-_-;).
〔本コラムは偶数月の10日頃更新しています。〕

技術士(電気・電子部門)
永倉正洋 技術士事務所 代表
一般社団法人 人材育成と教育サービス協議会(JAMOTE)理事
1980年 日立製作所入社。 システム事業部(当時)で電力情報、通信監視、鉄道、地域活性化などのシステムエンジニアリングに取り組む。
2003年 情報・通信グループ アウトソーシング事業部情報ユーティリティセンタ(当時)センタ長として、情報ユーティリティ型ビジネスモデル立案などを推進。
2004年 uVALUE推進室(当時)室長として、情報・通信グループ事業コンセプトuVALUEを推進。
2006年 uVALUE・コミュニケーション本部(当時)本部長としてuVALUEの推進と広報/宣伝などを軸とした統合コミュニケーション戦略の立案と推進に従事。
2009年 日立インフォメーションアカデミー(当時)に移り、主幹兼研究開発センタ長としてIT人財育成に関する業務に従事。
2010年 企画本部長兼研究開発センタ長として、人財育成事業運営の企画に従事。
2011年 主幹コーディネータとしてIT人財に求められる意識・スキル・コンピテンシーの変化を踏まえた「人財育成のための立体的施策」立案と、 組織・事業ビジョンの浸透、意識や意欲の醸成などの講演・研修の開発・実施に従事。
2020年 日立アカデミーを退社。
永倉正洋技術士事務所を設立し、情報通信技術に関する支援・伝承などに取り組む。日立アカデミーの研修講師などを通じて、特に意識醸成、意識改革、行動変容などの人財育成に関する立体的施策の立案と実践に力点を置いて推進中。
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