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株式会社 日立アカデミー

アウトカムとアウトプット

- 過去を俯瞰する視点と新しい視点の融合 -

2017年11月20日'ひと'とITのコラム

この連載でたびたび登場する、 IT人財に必要とされる "IT活用力"。
「IT力がアウトプット主体であるのに対し、IT活用力はアウトプットだけではないアウトカムが必要であるということです。・・・(コラムより抜粋)」
さて、アウトプットとアウトカムの違いはどこにあるのでしょうか。なぜIT活用力はアウトカムの視点が必要なのか、考えてみましょう。
(コラム担当記)

 まずはイソップ童話 「3人のレンガ積み職人(要旨)」を・・・

 『旅人が道を歩いていると、1人の男が辛そうにレンガを積んでいました。 旅人は、「ここでいったい何をしているのですか?」とたずねました。 すると、男は「見ればわかるだろう。レンガ積みをしているのさ。毎日毎日、雨の日も強い風の日も、暑い日も寒い日も1日中レンガ積みだ。なんでオレはこんなことをしなければならないのか、まったくついてない。」

 しばらく行くと、一生懸命レンガを積んでいる別の男に出会いました。 また旅人は「ここでいったい何をしているのですか?」とたずねました。 すると、「オレはね,ここで大きな壁を作っているんだよ。これがオレの仕事でね。」 旅人は「それは大変ですね」と、ねぎらいの言葉をかけると、「なんてことはないよ。 この仕事でオレは家族を養ってるんだ。 この仕事があるから家族全員が食べていけるのだから、大変だなんて言ったらバチが当たるよ。」

 さらにもう少し歩くと、別の男がいきいきと楽しそうにレンガを積んでいました。 旅人は興味深く「ここでいったい何をしているのですか?」とたずねました。 すると、男は目を輝かせて「オレたちは歴史に残る偉大な大聖堂をつくっているんだ。」 旅人は「それは大変ですね」と、ねぎらいの言葉をかけると、男は楽しそうにこう返してきました。 「とんでもない。ここで多くの人が祝福を受け、悲しみを払うんだ!素晴らしいだろう!」』

 この童話。 人財育成や仕事の意識醸成でよく使われます。 特に会社の中で自分が毎日コツコツとこなしている仕事を単にその仕事だけを見ても意欲が湧かないものを、その仕事が何をめざしているのかを考え、目的をそこに据えることで、同じ仕事がまったく違って見えるという寓話です。

 話は変わります。 

 道路にたくさん設置されている信号機。 この信号機の価値は何でしょうか?
「車や歩行者が、安全かつスムーズに道路を通行するため」。 そうですね、これは信号機の"アウトプット"の説明です。 では、信号機の価値を"アウトカム"で説明するとどうなるのでしょうか? 「この社会から交通事故を減らす・無くすため」。 アウトプットはその対象が創出する"直接的"な価値の視点であり、アウトカムはその対象が創出する"究極の・最終的な"価値(効果)の視点と言えるでしょう。

 また、話を変えます。

 最近 「デジタライゼーション(Digitalization)」という言葉が脚光を浴びています。 これに乗り遅れると将来のビジネスは暗い、とまで言われています。 背景にはIoTやビッグデータ、AIの拡がりもあるのでしょう。 ところでITフィールドではかなり昔から「デジタイゼーション(Digitaization)」という言葉も使われてきています。 言葉的には"ラ"があるかないかだけの違いです。 両方とも現実の世界(リアルの世界)のデータ・情報をコンピュータの世界(サイバーの世界)に取り込んで新たな価値を得ると言う原理原則に違いはありません。 では、何が違うのか? デジタイゼーションは、長くITにたずさわってきた人には懐かしい言葉になってしまいましたが、「オートデジタイザー」 図面をイメージではなくデジタルで読み込む装置などが代表例でしょう。 デジタル化は何のために行うのか? 多くの場合は工場などだけでなくオフィスも含めた生産性向上や効率化により「現場を強くする」ことが目的でした。 これは今も必要ですし、これからも消えることはないでしょう。 では、最近氾濫気味に使われているデジタライゼーションは、一体何なのでしょう。 実際にやることは「現場を強くする」になるのでしょう。 しかしデジタライゼーションに取り組むには、「ITが」、「IoTが」、「ビッグデータが」、「AIが」・・・創出する直接的な価値を見ていてもだめです。 この目線ではデジタイゼーションです。 どこに目線を向けるべきか。 現場の個別のプロセスがどういうビジネスの一部となっているのか。 そのビジネスが最終的には何をめざしているのか。 そのめざすものが社会や世界にどういう効果や影響を与えるのか。 個別最適ではなく全体最適の目線とも言えるかもしれません。

 

 これまでの3つの話。 共通していることは、やることは同じでもそれをどう見るかが大切で、その見方によって得られる価値の質や量も変わり得るということです。

 目的の与え方を変えるだけで人財の「やる気」が高まる。 「意欲」の強さが違うわけです。 このコラムでも何回か触れてきていますが、脳のコンピュータの電源は意欲といわれています。 特に知的活動ではこの意欲が電源の役割だけでなくコンピュータの性能さえ高めることになるでしょう。 創出される価値の質も高まります。

 目の前にあるものを単に目先の価値だけで見ていては、それが当たり前のものであれば余計にその重要性に気付かず、ないがしろにしてしまいがちです。

 現場の改善や現場力の向上を目的としたITの普及が一巡し、色々なことが変わってきています。 われわれは、省力化・効率化・利便性向上といった既知の解を実現する価値だけでなく、リアルの世界だけでは見えない未知の解をサイバーの世界で解決する価値を手に入れつつあります。

 多くのIT人財は、今までITのアウトプットを求められてきました。 これからはアウトカムも求められます。 ユーザは与えられた業務のアウトプットに効率性や高品質性を求められてきました。 これからはアウトカムも求められます。 IT力がアウトプット主体であるのに対し、IT活用力はアウトプットだけではないアウトカムが必要であるということです。

 

 今回のコラムで書きたかったことは、すべての人財がアウトプットだけでなくアウトカムの視点が求められる、ということもあるのですが、もうひとつ触れておきたいのが、新しい言葉が出現したら、過去からの流れの中で全体を俯瞰することが大切だ、ということです。 特にITフィールドでは、新しい技術の出現はありますが、ITへの期待価値でまったく新しいことが起きることは希であり、歴史の繰り返しであることがほとんどです。 クラウドコンピューティングの持つ「使いたいときに使い、使いたいだけ使い、使っただけ払う」は、2000年頃提唱された"情報ユーティリティコンピューティング"そのものです。 経営ITの限界はすでに17年前から起きていたわけで、クラウドコンピューティングに求められているニーズを"新しい"と捉えてしまうと間違ってしまいます。 第25回のコラムにも書きましたが、IoTの概念も決して新しいわけではありません。 IoTが"新しい"と捉えてしまうとやはり間違ってしまいます。

 IT領域の過去を知っている人財は、それなりの経験をこなしてきた人です。 そして多くの場合、過去を知らない若い人財の上長や指導員のケースが多いでしょう。 新しい言葉や概念が出てきたら、自分の経験を踏まえて過去からの俯瞰で解釈し、アウトプットではなくアウトカムの視点で若い人に伝え、そこに若い人の感性を融合させる・・・

 いま、求められている知的価値創出組織で必要な要素のひとつなのかもしれません。

執筆者プロフィール

永倉 正洋

技術士(電気・電子部門)
株式会社 日立アカデミー
主幹コーディネータ
一般社団法人 人材育成と教育サービス協議会(JAMOTE)理事

日立製作所でシステムエンジニアリングの経験を経て、2009年に日立インフォメーションアカデミー(現:日立アカデミー)に移る。企画本部長兼研究開発センタ長としてIT人財育成に関する業務に従事。2011年以降、主幹コーディネータとしてIT人財に求められる意識・スキル・コンピテンシーの変化を踏まえた「人財育成のための立体的施策」立案と、 組織・事業ビジョンの浸透、意識や意欲の醸成などの講演・研修の開発・実施を担当している。

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