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株式会社 日立アカデミー

ビッグマウスのすすめ

-意識・意志・意欲-

2016年1月21日'ひと'とITのコラム

あの人は本当に意志が強いなあ・・・。そんな人は他人から尊敬され、また、立派な人として認められていました。しかし、IT人財の価値源泉がIT力からIT活用力まで広がっている昨今、どうやら意志が強いだけでは人間力として足りないようなのです・・・。

 いつからでしょうか? 日本のアスリートが日の丸を背負った神妙な発言に終始していたのが、「楽しむ」とか「大きな目標」などを語るようになったのは・・・

 「ビッグマウス」という言葉は、「大口をたたくこと」「大言壮語」「やかましくしゃべる人」「口の軽い人」「ほら吹き」などあまり良い意味では使われなかったのですが、きちんと成果を出した人、特にアスリートに対する"褒め言葉"で使われるようになりました。

 本田圭佑は、途方もない目標を子供の頃から公言し続けました。2010年のワールドカップ後のインタビューで彼はこんなことを言っていました。 「言葉を口で発するときは、自分に向かって話している部分がある。何を言うかって非常に重要。俺はメディアにしゃべっていることって、自分に話しているということがほとんどやから。あとは公言的なところがあって、『言っちゃったよ』みたいな。自分は弱いからさ。当たり前だけど、人間やから」。 自分の壮大な目標をまわりに吹聴することで、自らをその発言の中に置く、ある意味「追い詰める」環境を作っていると言えるでしょう。

 色々なアスリートの話を聞くと共通的に見えてくるものの一つに、「本番での大きな飛躍」があります。観客の応援やライバルの存在など直接的な理由はさまざまですが、最後は自らの気持ちの高まりに帰結しているように見受けられます。よく言われる「メンタル面の強さが勝敗を大きく左右する」と同じことなのでしょう。さらに、日頃のストイックな練習を続けられる源泉は何なのか?先の本田圭佑のインタビューでもあるように壮大な目標を持つこと、すなわち強い「意欲」を持ち続けられることが根本にある気がします。

 ところで人財育成の観点では昔から「意識」という言葉が使われます。「意識が低いからミスする!」「もっと意識を持って取り組め!」「意識を変えないとダメだ!」云々。「意識」という言葉の近傍では「意志」「意欲」という言葉もあります。それぞれ辞書を調べてみると、〔意識:・認識し、思考する心の働き。感覚的知覚に対して、純粋に内面的な精神活動。・対象をそれとして気にかけること。感知すること。〕、〔意志:・困難や反対が有っても、最後まで やり抜こう(絶対にやらない)という、積極的な心の持ち方。〕、〔意欲:積極的に何かをしようと思う気持。・種々の動機の中から或る一つを選択してこれを目標とする能動的意志活動。〕とあります。これらの意味の違いから人が行動変容を起こすためには、新たな行動が必要であるという意識を持ち、それをやる という意志を持つ、すなわち「意識」だけではダメで「意志」を持つことが必要です。人財の育成では【Must-Can-Will】のサイクルで説明されることが結構あります。「必要な事を熟すために必要なことが出来るようになり、それをやり続ける意志を持つ」、このバランスが取れていること(三つの輪の重なりが大きい)が幸せであると言われています。ここでの「Will」は「意志」です。長年積み重ねてきた仕事のやり方(組織力)を強みとしてきた時代・・・"IT力"がIT人財の価値源泉の時代はこれが大切でした。しかし、本コラムでも触れてきたようにIT人財の価値源泉が"IT力"だけでなく"IT活用力"まで拡がってきている時代、従来の「Will=意志」、つまり「意識」―「意志」だけで良いのでしょうか?

 「IT活用力」はさまざまな人間力が必要であることはたびたび触れてきました。この人間力は少なくとも二つの観点があります。「活用」という言葉がそのまま表すように、人財が習得した技術や知識をいかに活用するか、という界面での人間力が一つ。使い方での工夫といった観点です。もう一つは、クリエイティブシンキングのように「活用」する対象そのものを創出するという観点です。これらは渾然としているのですが、少し乱暴とは思いつつ、結果的に「技術―知識の駆使」と「知恵の創出」とに分けることも出来ます。
「人間力は脳のコンピュータの出力」ですから、いかに脳のコンピュータを動かすか、が重要です。以前にも触れましたが、脳のコンピュータの電源は「意欲」だと言われています。先の辞書の引用からも推測できるように、「意識」「意志」ではなく「意欲」です。恐らく「意識」だけでは脳のコンピュータは「スリープ状態」や「休止状態」に遷移することを許しています。「意志」は脳のコンピュータを稼働させ続けますが、CPU稼働を最小にすることを許しています。知恵を生み出すためにはCPU稼働を継続的に高めることが必要です。CPU≒脳を「稼働させる」ではなく「稼働させたい」という状態にすることが必要です。すなわち「意欲」です。

 仕事で「意欲」を高めるためには何が必要なのか? 恐らくこの答えは人によって違います。昔、「部屋付き、秘書付き、車付き」がサラリーマンの「夢」と言われた時代もあります。いわゆる出世欲。あまり良い印象を与えませんが、会社に入って出世したい、社長になりたい・・・こんな「夢」を本気で持つならば、与えられた仕事をしっかりやり抜くための「意欲」の源泉になり得ます。子供の頃に多くの人から助けられた経験から、「人のためになる仕事をやりたい」と思い続け実際にその職に就けば、やはり「意欲」がベースにあります。しかし、多くの場合は与えられる業務のレベルで「意欲」を持つことを考えなければならないでしょう。すなわち「動機付け」が大切となります。上司が仕事を与えるときにしっかり「動機付け」することが求められるのですが、現状これが難しい・・・「動機付け」しなければならない上司の世代が、「動機付け」されてこなかった(あまり必要なかった)ため、「動機付け」の方法が分りません。「動機付け」しなければならないことそのものの理解も難しいでしょう。けれども、今後はこの「動機付け」⇒「意欲」が仕事の価値を左右する大きな要素となることは間違いありません。

 先の本田圭佑のビックマウス。自ら「動機付け」し「意欲」につなげているとも言えます。会社でもひとり一人がビックマウスになることも一考かもしれません。
(文中 敬称は略させていただきました)

執筆者プロフィール

永倉 正洋

技術士(電気・電子部門)
株式会社 日立アカデミー
主幹コーディネータ
一般社団法人 人材育成と教育サービス協議会(JAMOTE)理事

日立製作所でシステムエンジニアリングの経験を経て、2009年に日立インフォメーションアカデミー(現:日立アカデミー)に移る。企画本部長兼研究開発センタ長としてIT人財育成に関する業務に従事。2011年以降、主幹コーディネータとしてIT人財に求められる意識・スキル・コンピテンシーの変化を踏まえた「人財育成のための立体的施策」立案と、 組織・事業ビジョンの浸透、意識や意欲の醸成などの講演・研修の開発・実施を担当している。

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