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株式会社 日立アカデミー

慣習やマナーって何?

- アフターコロナの新しい行動様式に向けて -

2020年11月25日'ひと'とITのコラム

ニューノーマルにおける社会活動や経済活動を推し進めるうえで、私たち一人ひとりの行動様式も柔軟に世の中の変化に対応させていくことが必要です。今回は、これから先に来るアフターコロナの新しい行動様式に向けたコラムです。あらためて「慣習」や「マナー」について考えてみましょう。
(コラム担当記)

 断捨離をしました。いや、正確に書くと断捨離が90%終わりました。残り10%が遅々として進みません。これは、子供の頃から学習できない事柄の一つです。終わりが見えてくるとモチベーションが下がります。やっかいな性格だと思います。この断捨離、実に30年間の積み重ねを整理しました。私のパソコン歴は、1980年前半がMacintosh SE/30という機種から始めましたが、その時代のSCSIインターフェース(コネクターの幅が5cm程ある代物)の機器やケーブル、その後自作パソコンの世界に踏み込み、古くなったパソコンが4台、Windows95、Windows98、Windows Vista、Windows7、Windows8.1のインストールCDなど段ボール箱7箱分の物量となりました。ある意味ITが個人の身近に忍び寄ってからの歴史を振り返った感じがしました。改めてITの進化の速さを実感した時間でした。
 ところで、なぜ私は断捨離をしたのか?前回のコラムにも書きましたが、この8月で会社員生活に終止符を打ち、個人事業者となりました。人生の節目です。当然いろいろなものを整理するのが当然だろう・・・と思って断行しましたが、「人生の節目で整理をする」ことはなぜ"当然"なのか?なんとなく慣習的な感覚があります。

 そもそも"慣習"ってなんでしょう?広辞苑で調べてみると、『ある社会の内部で歴史的に発達し、その社会の成員に広く承認されている伝統的な行動様式。ならわし。風習。・・・』とあります。"ならわし"を調べると『・・・③しきたりとして決まっている事柄。ならい。習慣。風習。』。両方に出てくる"風習"は『その土地のならわし。しきたり。習慣。』。さらに"しきたり"は『(「してきたこと」の意)以前からのならわし。慣例。先例。』。では"慣例"とは『しきたり。ならわし。』。ついでに"作法"は『①物事を行う方法。「小説―」②起居・動作の正しい法式。「礼儀―」③きまり。しきたり。』。さらに付け加えて"マナー"は『行儀。作法。』とありました。いろいろな言葉を調べると言葉が回り始めます。これは面白いですが、訳がわからなくなります。いずれにせよ、大雑把には「我々の行動や作法、行儀が、地域や組織などの中で"決まっている"こと」と理解することが出来そうです。いわばローカルな常識です。ローカルと言っても、本当に狭い地域の場合もあれば、グルーバルで見れば日本という国単位でのローカルもあります。
 確かに「地域(土地)の慣習」は至る所にあります。だから「郷に入っては郷に従え」、「朱に交われば赤くなる」などの諺があるのでしょう。日本各地の慣習(風習)は、その土地でうまく暮らしていくために(場合によっては生き延びていくために)発生したその土地の"知恵の伝承"とも言えるでしょう。その土地の伝統とも関わり、日本古来の神事や宗教的要因から理由はわからないけれど伝承されているものも多いと思います。「伝統を守る」ことも大切です。しかし、「組織の慣習」はどうでしょう?やはり「郷に入っては郷に従え」、「朱に交われば赤くなる」などの諺が成り立ちますし、その組織でうまくやっていくために(場合によっては生き延びていくために)発生したその組織の"知恵の伝承"と言えるでしょう。しかし、「地域(土地)の慣習」はその必然性や納得感が得られるものが多い気がしますが、「組織の慣習」はどうでしょう?「なぜこんな慣習があるのか必然性や納得は感じないけれど慣習だから!」的イメージが強いように思います。
 下の絵は、昔よくあった(今もありますが)書類の回覧の確認です。前回のコラムで判子に触れましたが、(今回は判子の必要性の議論は横に置きます)この印鑑の傾きに意味があるそうです。担当者が一番深く頭を下げ、職位が上がる毎にだんだん角度が浅くなり、さらにある程度の役職になると印鑑が大きくなって存在感を増し、一番エライ人は頭を下げずにふんぞり返っている、という構図なんだそうです。私の会社経験ではほとんどが職印だったので、傾けることはほとんどありませんでした。いや、ありました。人によってですが、書類の内容に納得できない場合に「ただ見ただけ」という意思表示の場合職印が45度程傾いていて、「まったく納得できないが見た」という場合は90度ぐらい傾けている人がいました。これはこれで周りからはその人の心中が"見える化"されているので、やりやすかった面もありました。ある意味人間味を感じながら仕事をすることが出来ていました。

印鑑の傾きイメージ

 新人時代に習う「社会人マナー」。みなさんはすべて理解・納得して使っていますか?たとえば車に乗るときの上座マナー、よく言われるのが一番の上座は運転手の後ろで末席は助手席ですね。なぜでしょう?一番安全な席だからというのが多く聞く理由です。しかし、不思議なことがあります。運転手の後ろが上座なのはタクシーの場合です。例えば社用車や自分の車を使う場合(専門の運転手がいない場合)、一番の上座は助手席となります。運転手の後ろは2番目の上座です。けれどもタクシーでも自家用車でも安全性の観点では、助手席のリスクが高いのは変わらないはずです。タクシーの場合でも運転手の後ろに座るためには、座席の上を移動しなければなりませんし、特に私のように安いスーツだとテカテカに光ってしまいます。見通しも悪いです(だから安全だと言われているのですが)。以前にご一緒したお客さまで、車の運転が好きだという人がいましたが、この方はタクシーでも3人以上で乗るときには自ら助手席に座っていました。2人の時は助手席の後ろです。マナーなんかくそ食らえです。だけどマナーは存在しています。
 コロナ禍でリモートワークが拡がりました。すると新たな慣習(マナー)が出来つつあるそうです。マスコミでも話題になりました。リモート会議で参加者の最上位者への開始時間の案内を、他の参加者よりも5分程度遅くするそうです。他の参加者全員が接続し終わって最上位者を"迎える"ためだそうです。映像付きの場合は最上位者の位置を真ん中の一番上にする要望が出されたそうです(あるシステムが対応したそうですが、少なくとも表向きは今回の要望に応えたのではなく元々別のニーズへの対応で開発していたそうですが・・・)。会議終了後は最上位者が接続を切るまでは、他の参加者は接続したままにするそうです。
 私がこの情報に最初触れたときに思ったことは、ことの善し悪しではなく、「人間って慣習(マナー)を作りたがる動物なんだ」と言うことです。なぜなのか・・・?
 おそらく"楽"になりたいのでしょう。

 慣習やマナー、しきたりなどは苦労の源です。知らないことが恥をかくことにつながりやすいので、知ることが大切です。慣習などが存在するかどうかもわからない中では、これは結構大変です。ですから多くの人は、多くの場面で「こんな慣習はやめちまえ!」と思うことが多いでしょう。例えば私の家は浄土真宗なのですが、浄土真宗ではお通夜から「御仏前」です。「御霊前」ではありません。すなわち亡くなると即「仏様」です。「霊」という概念がありません。このためお通夜や葬式の時の「清めの塩」もありません。しかし、私は親の葬儀で迷った末に会葬御礼に「清めの塩」をつけました。多くの葬儀では「清めの塩」がついているのが慣習です。浄土真宗では必要ないことを知っている人の方が少ないのも事実です。そうなるとつけずにいると「永倉の息子は慣習を知らない世間知らず」と言われかねません。保身と本来論の狭間で悩まなければなりません。面倒です。
 しかし、先ほど書いたように人間は慣習を作りたがります。矛盾ですね。なぜなのか?もし何も慣習やマナーが存在しないとしたら、シチュエーションが変わるたびにどうすればよいのかを毎回考えなければなりません。慣習やマナーがあるとそれを頼りに出来ます。そこになぜそうするのか、なんて面倒くさい理屈は必要ありません。考えなしに頼りたいわけですから変な理屈があると却って困ります。こうやって最初はそれなりの理屈があったものでも、いつしか理屈が消え去り、形だけが残っているものがたくさんある気がします。

 理屈がぶっ飛んで慣習化することで、本来の目的と真逆になってしまうことも多々あります。一例を挙げるとメールに資料を添付するときのPPAP方式と呼ばれる「パスワード付きzipファイル」です。
 情報漏洩のリスクは高いままです。このためメールで資料などを暗号付き圧縮して添付するやり方が拡がっています。手順としては資料を暗号付きで圧縮し、まずはメールに添付して送信し、その後別メールで解凍のためのパスワードを送信する、となります。現実私も資料のメールが送られてきて、その後パスワード記載の別メールが連続して送られてくるケースが多々あります。しかし、ここに落とし穴があります。暗号付きで圧縮すること自体は漏洩防止に大きな効果が期待できますが、パスワードの送信が連続したメールで送られることにリスクがあります。送る人は暗号化した資料とパスワードを別メールで送るという"手順そのもの"が重要と思い、そのやり方を慣習化(習慣化)させます。職場で徹底させるために「習慣づける」ことを徹底することも後押しすることとなります。しかし元々何で別メールとするのか?当然同じメールだと誤配した場合など一発で解凍されて情報漏洩となります。だから別メール。しかし、連続してメールを送ると両方とも同じアドレスミスを起こす可能性も高いと言うことです。さらにもしハッキングされた場合、まとめてハッキングされます。結局単に"慣習化した手順"として連続させて送信すると、別メールで送っても同じメールで送ったことと何ら変わりがない、と言うことになりかねません。理屈が根付いていれば、連続させない、もしくはメールアドレスを(例えばコピペしないなど)特に注意することに意識が及びます。ただ、連続させないと送る側も受け取る側も手間やわかりにくさが格段に増してしまいます。パスワードを別の人から発信する、別メルアドで発信するなどの方法も考えられますが、いずれにしても現実味は薄いのでリスクは残るけれど別メールで送るという"バランス"を取っていると言えるでしょう。だから余計に、慣習化した行動の中で常に理屈を意識するという人にとってはやっかいなことが求められます。これをしっかり根付かせるためには、よく「別メールで送っているかのチェック」を行って、守っていない人に指摘をして守らせるという行動の慣習化をチェックするのではなく、常にこの手順を遵守している人にこそ「本来はどのようにするのが良いのか」を聞いて答えさせること、すなわち手順や動作の確認ではなく、本来の理屈・目的を確認することが大切なんだと思います。
 このPPAP方式、11月17日にデジタル改革担当相の定例会見で「中央省庁の職員が文書などをメールで送信する時に使っている「パスワード付きzipファイル」を廃止する」との発表がありました。廃止のきっかけは「デジタル改革アイデアボックス」への提案が元にあるようですが、廃止理由は「スマホ等で内容が確認できない」「手間がかかる」というものと同時に、押印廃止と同じように「今までやってきたから」続いているのではないかとの判断が大きいようです。セキュリティ確保の理屈がどこかに行ってしまって慣習化していることに白羽の矢が立ったと言うことでしょう。

 我々は、やはり出来るだけ考えたくない動物なのでしょう。脳は出来るだけ休もうとしていることにも合致します。しかし、このコラムでも何回か触れてきているように、「未知の解の解決」が必要な時代です。「既知の解の解凍」の場面で機能した「慣習や習慣、しきたりなどに頼って手間を省く」ことが、「未知の解の解決」ではジャマをします。「解決」は到達点がわからない中で考え抜くことが求められます。まだ経験が浅い領域ですので、我々は"楽"を実現するノウハウを持ち合わせていません。しばらくは苦労するしかないと言うことです。

 以前、喫煙所で新人に「喫煙上でのマナーは何がありますか?」と聞かれました。彼の中ではマナー≒規則なのです。マナーはまだ柔軟に考える予知がありますが、規則は守れば良いだけのものです。社会が多様化しているからこそ規則が欲しくなるのだと思います。"楽"をしたいのですね。だけれど、コロナ禍、アフターコロナで新しい行動スタイルが求められている今だからこそ、すぐに新しい慣習やマナーなどを作るのではなく、それぞれのシチュエーションで臨機応変に考えて行動する"苦労"を経験する良い機会なんだと思います。
 今がチャンスです。アフターコロナの新しい行動様式は「慣習やマナーに頼らない行動」なのかもしれません。慣習やマナーなどとの向き合い方を考え直してみませんか。

*商標については、他社所有商標に対する表示をご参照ください。

執筆者プロフィール

執筆者 永倉正洋氏

永倉 正洋 氏

技術士(電気・電子部門)
永倉正洋 技術士事務所 代表
一般社団法人 人材育成と教育サービス協議会(JAMOTE)理事
Mail:masahiro.nagakura@naga-pe.com

 

1980年 日立製作所入社。 システム事業部(当時)で電力情報、通信監視、鉄道、地域活性化などのシステムエンジニアリングに取り組む。
2003年 情報・通信グループ アウトソーシング事業部情報ユーティリティセンタ(当時)センタ長として、情報ユーティリティ型ビジネスモデル立案などを推進。
2004年 uVALUE推進室(当時)室長として、情報・通信グループ事業コンセプトuVALUEを推進。
2006年 uVALUE・コミュニケーション本部(当時)本部長としてuVALUEの推進と広報/宣伝などを軸とした統合コミュニケーション戦略の立案と推進に従事。
2009年 日立インフォメーションアカデミー(当時)に移り、主幹兼研究開発センタ長としてIT人財育成に関する業務に従事。
2010年 企画本部長兼研究開発センタ長として、人財育成事業運営の企画に従事。
2011年 主幹コーディネータとしてIT人財に求められる意識・スキル・コンピテンシーの変化を踏まえた「人財育成のための立体的施策」立案と、 組織・事業ビジョンの浸透、意識や意欲の醸成などの講演・研修の開発・実施に従事。
2020年 日立アカデミーを退社。
永倉正洋技術士事務所を設立し、情報通信技術に関する支援・伝承などに取り組む。日立アカデミーの研修講師などを通じて、特に意識醸成、意識改革、行動変容などの人財育成に関する立体的施策の立案と実践に力点を置いて推進中。