- 仕事というものを世代間で共有出来ているのだろうか -
2018年6月8日'ひと'とITのコラム
「あなたにとって仕事とは何ですか?」という質問は就職試験の面接でよく聞かれるのではないかと思います。その回答はさておき、職場において、果たして社員の世代により仕事に対する意識が異なるのでしょうか。
永倉はこう言います。『巷では「働き方改革」という言葉が盛んに使われていますが、正規・非正規雇用、アルバイト、パート、派遣など"形態"の議論だけでは足りないように思えます。"形態"の中身である「働く」ということそのものが多様化してしまっている時代を迎えています。』
さあ、いっしょに考えてみましょう・・・
(コラム担当記)
まずは二つの話を書きます。
若手社員を指導する立場の人を対象とした研修で出てくる今時の若者の"理解できない"、"不思議な"、"困った"行動は回を超えて共通しています。 例えば、
等々
これらの行動を「だからダメなんだ!」、「やる気がない!」などと切り捨てることは簡単です。 しかし、本当にダメなのでしょうか? 本当にやる気がないのでしょうか?
二つ目の話はある調査結果の話です。
公益財団法人 日本生産性本部が新入社員を対象に『「働くことの意識』調査』を1969年(昭和44年)から毎年行っており、2017年(平成29年)版が昨年6月26日に公表されています。 これはおもしろいです。
注目した「働く目的」の項目は二つ。 「自分の能力をためす」と「楽しい生活をしたい」です。 みなさんの「働く目的」はどちらですか? 両方ですか?
この二つ、平成13年までは30%前後で拮抗していました。 要は両方が目的だった人が多かったのです。 ところが翌年から乖離し始めます。 どうなったか? ここ3年の変化を見てみます。
平成14年から平成27年の14年で約3倍弱の開きとなり、さらにこの3年で約4倍の開きに加速しています。
別の調査でも似たような傾向が読み取れます。
株式会社日本能率協会マネジメントセンターが調査した『イマドキ若手社員の仕事に対する意識調査2017』は、若手社員と上司・先輩の比較で仕事に対する意識を調査しています。 両者で差が出ている項目を挙げてみます。
どうでしょう? 項目の差はあれど先の調査と同様に世代差を見出すことができます。
さて、二つの話から何が導かれるでしょうか?
私が感じ取ったのは、"仕事"と"アルバイト"の認識の変化です。 ここで言う"仕事"はいわゆる"就職での仕事"です。 なぜ、わざわざこう書かなければならないのか。 「"アルバイト"も"仕事"ですよね?」という人が増えているのではないか、という仮説を感じ取ったからです。
そもそも"アルバイト"という言葉、語源はドイツ語で「仕事」を意味する名詞のArbeitに由来しています。 そのドイツでは、本業としての「仕事」を「アルバイト」と呼び、軽い仕事に対しては英語由来の「ジョブ」(Job)が使われています。 日本とは何となく逆のイメージもあります。 いずれにせよ、何かしら労働を提供し対価をもらう、という意味では確かに同じです。 しかし、"仕事"と"アルバイト"は、直感的に異なるものだと当然のように考えられてきたのではないでしょうか。 いわば"常識"ですね。 しかし以前(第27回)に書いたように"常識"は変わります。
従来から"仕事"と"アルバイト"の違いについて論じられたものは多数あります。 その多くの説明で使われているのが【マズローの五段階欲求】を使った説明です。
従前は、「自己実現の欲求」と「尊厳の欲求」が質的に大きな違いと認識されていたように思います。 特に「自分の可能性を伸ばし、自分の能力を活かして人から尊敬される喜び」を生涯通じて得るのが"仕事"であり、「安全の欲求」や「生理的欲求」という生きるための糧という意味合いも絡み合っていたように感じます。 誤解を恐れず端的に言ってしまえば"仕事"は目的、"アルバイト"は手段という見方も出来ました。
しかし、最近"アルバイト"をする人の年齢が高くなっている(高学歴者のアルバイトが増加)という調査結果もあります。 旅行に行くためとか楽しい時間を過ごすためというライフシーンを豊かにする+αのために稼ぐだけでなく、学費の高騰などにより学生生活を送るために必要不可欠という人も多くなっています(従来から生活費が目的のアルバイトも存在していましたが)。 従って、現在"仕事"と"アルバイト"の「安全の欲求」や「生理的欲求」という生きるための糧の部分はあまり差がなくなってきていると推測できます。 すると違いは「自己実現の欲求」と「尊厳の欲求」との質的な部分ということになるのですが、先述した調査結果です。 「自分の能力をためす」はどんどん下がってきています。 「自分の能力が発揮できる」、「よい結果を出す」の上司・先輩との乖離は拡がっています。 逆に「楽しい生活をしたい」は過去最高、「お金を多く稼ぎよい生活を送る」、「自分らしい生活を送る」が増加しています。 "仕事"も目的ではなく手段と感じている人が増えてきて、結果"仕事"と"アルバイト"の感覚差はなくなってきているようにも感じます。
"アルバイト"はどんな特徴があるのでしょうか?
いろいろな形態がありますので一概には言えないのですが、多くの場合「決められた業務を、決められたやり方で、決められた責任範囲で、決められた時間で行う」というような感じでしょうか。 要するに決められたこと以上はしない、責任が取れるのは正社員なので、何かトラブったらすぐに正社員に伝える、時間になったら即座に帰る、ということになります。 この特徴、どこかで見ませんでしたか? 冒頭に触れた「若手社員を指導する立場の人が感じている、今時の若者の"理解できない"、"不思議な"、"困った"行動」と根は一緒です。 この研修に参画している指導者に「若者がアルバイトと同じ感覚で仕事をしている可能性」を伝えると、多くの人が不可思議な若者の行動に対して腹落ちするようです。
さて、これを「由々しき問題」と捉えるのか、「時代の変化」と捉えるのか・・・
巷では「働き方改革」という言葉が盛んに使われていますが、正規・非正規雇用、アルバイト、パート、派遣など"形態"の議論だけでは足りないように思えます。 "形態"の中身である「働く」ということそのものが多様化してしまっている時代を迎えています。
「今時の若者は・・・」と思っている現場で、従前の働き方の"仕事"を求めるのであれば、「そもそも仕事とは何か」、「そもそも働くとは何か」から意識共有する必要があるのでしょう。 だって知らないのですから。 やっかいな時代となりました・・・。
技術士(電気・電子部門)
株式会社 日立アカデミー
主幹コーディネータ
一般社団法人 人材育成と教育サービス協議会(JAMOTE)理事
日立製作所でシステムエンジニアリングの経験を経て、2009年に日立インフォメーションアカデミー(現:日立アカデミー)に移る。企画本部長兼研究開発センタ長としてIT人財育成に関する業務に従事。2011年以降、主幹コーディネータとしてIT人財に求められる意識・スキル・コンピテンシーの変化を踏まえた「人財育成のための立体的施策」立案と、 組織・事業ビジョンの浸透、意識や意欲の醸成などの講演・研修の開発・実施を担当している。
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