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株式会社 日立アカデミー

2015年11月16日'ひと'とITのコラム

たとえば、H大学に在学している日立太郎さんが[0123456789]という学生番号を持っている場合、その学生番号はH大学で日立太郎さんを識別する記号になります。そして、おそらく日立太郎さんを識別する記号はさまざまな局面で複数存在します。さて、この識別する記号とITとの関係は ...?

 フットマッサージ中にふと思ったこと、「男性の名前は3文字以上が多く、女性の名前は2文字か3文字が多いなぁ・・・」特に4文字以上の女性の名前は私は2~3しか目に触れたことがありません。

 インターネットを見ていたら、明治安田生命のサイトに2014年度に多かった名前が紹介されていました。発音で見ると、男性名の順位は1位から「ハルト」「ユウト」「ソウタ」「ユウマ」「リク」の順、女性名は「メイ」「ユイ」「リン」「コハル」「リオ」の順のようです。
昔から名前は時代を反映していますが、どの時代でも男性名、女性名の「らしさ」が存在しているように思います。先ほど触れた文字数は特にそうで、大正から昭和初期は2文字の名前が「(私が感じる)らしさ」で、昭和中頃は"子"で終わるのが「(私が感じる)らしさ」です。ただ「アサヒ」「リン」「ヒナタ」「ルイ」「イブキ」「レオ」などある時期から男女共用の名前が増えてきているのも時代の特徴でしょう。最近は名前の付け方が"響"優先で「読み方」が先に決まり後から漢字を当てる傾向が強いらしく、どう読めばよいか分からない漢字も多いのも時代なのでしょう。

 この名前、"脳のコンピュータ"の凄さを象徴しています。先ほどから触れている文字数だけでなく読み方や漢字の印象によって男女の区別を判断できる能力です。"ITのコンピュータ"でも過去のデータと照合することで判別することも出来ますが、"脳のコンピュータ"は「感性」のレベルで「らしさ」を判断しているように思います。この辺が"脳のコンピュータ"と"ITのコンピュータ"の基本的な違いなのかもしれません。

 今回のコラムで書きたかったのはここではありません。「名前の役割」です。

 「名前」を辞書で調べると『同一のグループに属するかどうか、また、同一のグループ内で同じ個体であるかどうか、の認識に役立つように付けられる象徴的記号。〔人については、狭義ではその家族に属する一人ひとりを区別して表す呼び方?=一郎・花子など?を指すが、広義では名字をも含んだり?=田中一郎・山田花子など?、単に名字?=田中・山田など?を指したりする〕(新明解国語辞典(第七版)』とあります。"象徴的記号"です。
要は"見分ける"ためのもの、"識別するための記号(≒識別子)"。識別子は『複数の対象から、ある特定の対象を一意的に区別するために用いられる名称、符号、文字列、数値。識別符号。』ということになります。識別子はもともとITの世界で用いられたものなので無味乾燥なものがほとんどです。それに引き替え「名前」は人の目で見て多くのことを表現しているように思えます。「らしさ」「親の思い」「姓名判断(?)」「時代」等々・・・ また横道に逸れました・・・

 識別子という概念で、私たちの周りを見ると、"私を表す名前"はいくつ存在するのか。こんなにも多いのかとあらためて思い知らされます。
個人に関する識別子は、「名前」を始めとして「学校の出席番号、学生番号」「健康保険番号」「免許証番号」「パスポート番号」「保険番号(加入している数だけ存在)」「社員番号」「病院毎の診察券番号」「ポイントカード毎の番号」「年金番号」・・・厳密には個人が対象ではないがほぼ個人の識別の役割を持つ「電気・ガス・水道のお客さま番号」「自動車の登録番号」・・・そして「マイナンバー」

 なぜ、こんなにも多くの"識別子"があるのか? 良い悪いは別として基本的にはそれを使っている側の都合です。ですから企業や組織ごとに個別となるため、数多くの"識別子"が存在してしまうわけです。企業や組織では、ほとんどITで管理しています。従って各々の"識別子"は各々の企業や組織のITシステム上の"写像空間"の名前です。我々は、知らないうちに多くの異なる"写像空間"に存在しているということです。

 最近、ITフィールドだけでなくビジネス誌などでも多く目にするIoT(Internet of Things)。これを可能とするM2M(Machine to Machine)の概念は昔からありました。FA(Factory Automation)に代表される工場の監視制御システムや新幹線の運行管理システムなど、実際の対象物をセンサーなどで確実に把握し、IT上に「写像空間」を構成して、この「写像空間」で必要な監視制御を行うという概念です。ではIoTは何が違うのか? 色々な捉え方が出来ますが、もっとも大きく影響を与えたのはインターネット経由で実際の対象物とITをつなぐことが出来るようになった、ということでしょう。

 インターネット上でコンピュータを始めとしてさまざまな"もの"をつなぐためには、一つ一つを識別するための"アドレス"が必要となります。これを「IPアドレス」と呼びますが、従来は「IPv4」というものが使われてきています。このIPv4、実は2011年2月3日に枯渇してしまいました(IANA: Internet Assigned Numbers Authorityにプールされていたアドレスの枯渇)。IPv4で識別できる最大数は約43億個でした。IPv6の最大識別数は約340澗個(340兆の1兆倍の1兆倍(340京の1京倍の1万倍))となります。IPv6が世に出たときには「地球上の海岸の砂粒一つ一つにアドレスを付けることが出来る」と言われたものです。すごい世の中になったものです。このIPv6のおかげでコンピュータだけでなく"もの"や"ひと"がインターネットを介してITの世界とつながり「写像空間」に取り込まれることになりました。すなわち我々一人ひとりの識別子として実空間では見えないけれど"写像空間"ではベースとなるIPアドレスが存在するということです。もしかすると私はITの写像空間では"名前"『2404:6802:8014:0:0:0:0:6a』と呼ばれているのかもしれません。「永倉正洋」という名前は意味を持たなくなります。

 先に書いた多くの企業や組織のITシステムの"写像空間"は、それぞれ個別の異なるローカルな空間ですからそこでの識別子もローカルなものです。IPv6による識別子はインターネット全体ですからグローバルな識別子です。マイナンバーは企業や組織以上、日本以下の"国内"識別子と捉えることが出来そうです。このように一人の人間を識別することを複雑にしたのはITです。これは当然ながら利便性の飛躍的向上などの価値を得るためのものです。しかし、個別の"写像空間"だけでみればたいしたことではないものが、積み重なるととんでもなく複雑になっている。ある意味ITの普及と浸透が及ぼす特徴的な現象と言えるのかもしれません。

 人を識別して特定する基本的な名前という識別子。この先想定される広大なIT環境の "写像空間"でほとんどのことが成立する社会では、名前が通用するのはほんの少し残された実空間だけで、何か人間的な部分を残す唯一のものとなっているのかもしれません。こうならないように、我々IT人財は利便性と人間性のバランスを取ることを忘れてはならないのだと思います。

執筆者プロフィール

永倉 正洋

技術士(電気・電子部門)
株式会社 日立アカデミー
主幹コーディネータ
一般社団法人 人材育成と教育サービス協議会(JAMOTE)理事

日立製作所でシステムエンジニアリングの経験を経て、2009年に日立インフォメーションアカデミー(現:日立アカデミー)に移る。企画本部長兼研究開発センタ長としてIT人財育成に関する業務に従事。2011年以降、主幹コーディネータとしてIT人財に求められる意識・スキル・コンピテンシーの変化を踏まえた「人財育成のための立体的施策」立案と、 組織・事業ビジョンの浸透、意識や意欲の醸成などの講演・研修の開発・実施を担当している。

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