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株式会社 日立アカデミー

「ITを使うべきではない」と提案するIT人財

-これから求められるIT人財像のひとつの姿-

2015年6月8日'ひと'とITのコラム

物事は、始める時よりも止める時の方が難しいですよね。しかし、こうした勇気ある決断は、確固たる根拠とある種の見極めの結果なのだと思います。これからは、ITのプロフェッショナルとしてこうした見極めや決断ができる人財がますます必要になってくるのでしょうね。

 本コラムでは、『これからのITの役割を踏まえると、IT人財(IT部門)に求められる価値創出のためには、"IT力"だけでなく"IT活用力"が必須となる』と主張してきました。

 この"IT活用力"、端的に言えばITという技術を活用した"道具(手段)"を、経営やビジネスを始めとする社会のさまざまなフィールドで、どのように活用すれば最適な価値を生み出すことができるか、を考えて実現する力です。

 過去(ソリューションという技法の出現がひとつの区切り)は、"IT活用力"はユーザなど道具を使う側に求められていました。ただし、"IT活用力"などとあらためて言う必要はありませんでした。ユーザが自らの活動の中で実感する無駄や不便などをそのまま抽出し、どう変わったらうれしいかを素直にまとめれば良かった時代がIT浸透期として長く続いていました。しかし、ユーザが遂行する業務のほとんどがITに置き換わり、効率化や利便性向上の領域というITの価値対象は、ほとんど残されていないのが現在です。ITの活用領域は、経営・ビジネスの価値を高めることに主軸が移っています。IT活用を考えることは、ビジネスの価値を考えることと同じです。ユーザから簡単にIT活用の知恵が出てくる状況ではありません。

 ユーザの仕事は、ビジネスの価値を高めることが本筋です。そこでいつも悩んでいます。この同じ悩みをユーザとは違った観点や視点で悩み、ユーザとは違った角度でアイデア出しができる人財がいれば、その企業の中で知恵・知識のシナジーが発揮されます。今の社会、さまざまなイノベーティブな価値はITが関与します。だからこそ、IT人財(IT部門)にIT活用力が必要となるわけです。

 IT活用力を発揮できる人財はどういう人財なのか、このコラム(第5回)でも触れましたが、「ITとビジネスを融合させ、顧客や社会に新たな価値を生み出し、改善から革新的な変革までを含む幅広いイノベーションを創出する人材」として定義された『IT融合人材』が大いに参考となります。

 しかし、『IT融合人材』に関する情報を見ると、こういう能力、こういうスキルが必要である、という形でまとめられており、これはこれで参考となるのですがめざす姿としてわかりやすく説明しようとすると結構難しいのが現実です。では、一言でみんなが共有できるためにはどういう説明をすれば良いのか...?

 これについて最近私が使っている表現は、「ITを使わない方がよい、と責任持って言える人財」です。

 ITが普及期にあった頃、ユーザ企業のIT部門やITメーカ、ITベンダの立ち位置は(例外はありましたが)「いかにITシステム,サービスを使ってもらうか」でした。企業や組織での"IT普及率"がIT部門の目標として設定されていた時期もありました。「IT人財はITの知識を持つ専門家、ユーザはITを使う人でITの知識を持ち合わせない素人」というわかりやすい構図でした。現在、社会全体でITが浸透しスマホやインターネットが当たり前の環境です。若い世代は物心ついた頃からITを使うことが当たり前でした。つまりデフォルトがIT活用です。先ほどの単純明快な構図は崩れてきているということです。ユーザ側からITを使うことが当たり前の発想が出てきます。

 そこで問題となるのは、ITの普及でセキュリティ確保の難しさに代表されるように、IT活用のレベルが一つではなくなったということです。生活者が身近でITを使っているレベルのままビジネスのフィールドでITを活用できるとは限らないわけです。すなわち、IT活用を語るには、このレベル感をしっかり把握し適切な考えを持つことが避けられません。ITの動向も社会やビジネスの動向も常に進化し、変化する不透明なものです。そこを推測する力やIT活用場面が拡がることによる影響を見極める力などが求められます。

 物事をやめさせる発言をすることは、物事を進める発言よりも根拠と責任が必要となります。ある課題解決のためにITを使うことが大勢を占めているときに、ITを使わない方が良い、と責任持っていうにはITのプロフェッショナルとしての眼力が求められるということです。ITの効用理解力、ITの適用力などプラス側の知見だけでなく、IT活用の影響推察力やITの限界推察力、IT活用による新たな課題発見力、さらには動向変化を見抜く力などある意味否定的な見方の知見も重要となります。

 「ITを使いたがる人に、ITを使わない方が良いことをきちんと説得する」、こういう場面を通じて"IT活用力"を見える化し、IT人財の成長を見える化する。ITの進化や社会の変化は止まることはないので、このやり方が未来永劫使えるかはわかりませんが、当面は使えるのではないでしょうか。

執筆者プロフィール

永倉 正洋

技術士(電気・電子部門)
株式会社 日立アカデミー
主幹コーディネータ
一般社団法人 人材育成と教育サービス協議会(JAMOTE)理事

日立製作所でシステムエンジニアリングの経験を経て、2009年に日立インフォメーションアカデミー(現:日立アカデミー)に移る。企画本部長兼研究開発センタ長としてIT人財育成に関する業務に従事。2011年以降、主幹コーディネータとしてIT人財に求められる意識・スキル・コンピテンシーの変化を踏まえた「人財育成のための立体的施策」立案と、 組織・事業ビジョンの浸透、意識や意欲の醸成などの講演・研修の開発・実施を担当している。

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