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株式会社 日立アカデミー

第13回 "事実"の切り口

-ITはきちんと"事実"を表せるか...-

2015年1月30日'ひと'とITのコラム

2015年最初のコラムは、事実と限界についてです。能力の限界、体力の限界などいろいろなことに限界があるように、現在のIT技術にもそれはあります。難しいテーマではありますが、日々の忙しさで余裕がない中でも一度ゆっくり考えてみるのはいかがでしょうか。

 "事実"とは一体何なのか? 辞書的には『事の真実。真実の事柄。本当にあった事柄。』となります。自らが居合わせた状況のなかでリアルタイムに把握できることは、無条件に"事実"として認識できます。しかし、時間的・距離的に離れている事柄を"事実"として認識するにはどうすれば良いのでしょうか? 子供の頃、珍しいことを友達に話すと「そんなのウソだ!」「本当だよ!」「なら、それって新聞に出てるの?!」・・・新聞やテレビで報道されていないと信用されないが、報道されていると信じてもらえる、特に写真付きだと確実に信用される、ということが多くありました。"事実"を伝えたり記録として残したりすることは、昔から行われてきています。しかし、その信憑性を担保することは、結構難しい・・・。

イメージ

 今の時代はITにより加工できるようになってしまったので少し変わりましたが、少し前までは真実の担保機能を「写真」が果たしてきました。写真という言葉、辞書で調べてみると『ありのままを写しとること。また、その写しとった像。写生。写実。』とあります。 "事実"を切り取り写真として定着させてそのままを伝える。我々は写真を切り取られた"事実"として認識しています。

 「第二次世界大戦中、澄んだ青空の下、ある町の公園で徒競走大会が開催されており、周りに家族連れの人たちが手を振り上げて盛んに応援している。」1943年にヨーロッパで撮られたこの風景の写真を想像してみてください。この写真は長年、戦争の合間に得た平和の時を、家族スナップとして記録されていたと思われていました。しかし後年、この写真のネガをスキャナーで読み取り表示してみたところ、"事実"が違っていることが判明しました。公園の上空、晴れ渡った青空には、敵の戦闘機が正面から写っていました。記録を探してみると、撮影されたのは公園に集まっていた人たちに戦闘機がまさに機銃掃射しようとしていた"事実"を撮影したものだったのです。束の間の平和な家族スナップ写真が、実はピューリッツァー賞に匹敵するほどの写真だったということです。

 これは、決して誰かの操作による間違った"事実"の伝達ではありません。

 実は、撮影面での技術は飛躍的に発展したが、それに対して現像の技術が追いついていないことで生じた現象です。すなわち、レンズを通してフィルムに写し取っている情報を、100%定着させる現像技術が存在しておらず、レンズが捉えた情報の何割かは現像作業の中でこぼれ落ちていたということです。この写真では、青空の中に戦闘機の姿が埋没して定着されていたのです。

 この「光学写真機」で光学写真フィルムが写し取るレベルと、現像定着レベルとの差は、写真のプロの間では常識ですが一般の人たちには知られていないことです。私も知りませんでした。知らなければ写真は"事実"をありのまま伝えていると思ってしまいます。

 ここから学べることは、その道のプロでなくても利用する人は、該当技術の限界を知っていることが大切であり、その限界を踏まえて情報を読み取ることが求められるということです。

 さて、最近ではITの普及・浸透により、リアル社会のさまざまなデータ/情報を収集して「写像空間」をITの中に構築し、その「写像空間」を媒介としてITとリアル社会を融合させています。M2M、センサーネット、ビッグデータ、マイナンバー制度 等々融合の精度を高める方向に向かっています。これは豊かな社会の形成に向けた大切な取り組みですが、写真の技術と同じようにひとつの技術だけで構築されるものではありません。技術の進展の違いや限界の違いが混在しています。すなわち、全体を見たときにデータ/情報のこぼれ落ちや余計なデータ/情報の吸着が起こりうるということです。技術である以上仕方ありません。

 IT人財には、このことを認識し、その限界や影響さらには今後の動向予測など今まで以上に洞察力が必要となります。しかし、これだけでは足りません。ITが一般の人たちにとって当たり前となっている時代、一般の人たち一人ひとりがある程度ITの限界や特性を知っていなければなりません。

 的確に技術を普及させるということは、使う人々の活用リテラシーもバランスをとりながら向上させる仕掛け/仕組みが社会システムの中に組み込まれなければならないということです。

 昨今のSNSを引き金とした事件が発生すると、この面が遅れているのかもしれない...と感じてしまいます。ITに対しては単なる技術としてではなく、社会システムとして向かい合う意識が重要です。

執筆者プロフィール

永倉 正洋

技術士(電気・電子部門)
株式会社 日立アカデミー
主幹コーディネータ
一般社団法人 人材育成と教育サービス協議会(JAMOTE)理事

日立製作所でシステムエンジニアリングの経験を経て、2009年に日立インフォメーションアカデミー(現:日立アカデミー)に移る。企画本部長兼研究開発センタ長としてIT人財育成に関する業務に従事。2011年以降、主幹コーディネータとしてIT人財に求められる意識・スキル・コンピテンシーの変化を踏まえた「人財育成のための立体的施策」立案と、 組織・事業ビジョンの浸透、意識や意欲の醸成などの講演・研修の開発・実施を担当している。

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