ページの本文へ

Hitachi
お問い合わせお問い合わせ

株式会社 日立アカデミー

第12回 ITはノーベル賞を取れるのか?

-ITは"科学"の領域に達するのだろうか-

2014年12月24日'ひと'とITのコラム

今年もいろいろな話題がありましたが、青色LEDの発明でのノーベル賞受賞は、日本全体を明るくしたニュースの一つでした。このニュースを振り返り、人の知が生み出したITがもつ特異性とその存在の大きさを改めて感じた永倉です。

 今回のコラムは12月、「1年を振り返る」時期に書いています。この振り返りをコラムで書こうとするといろいろなことがあり過ぎて春を迎える頃まで回を重ねなければなりません。新鮮な話題をひとつあげるとすれば、「明るく省エネ型の白色光源を可能にした効率的な青色LEDの発明」で受賞したノーベル物理学賞でしょう。 言うまでもなくノーベル賞は「人類が非常に大きな利用価値を得るような発見/発明」を対象とし、物理学賞、化学賞、生理学・医学賞、文学賞、平和賞、経済学賞(*)の6部門から構成されています。とくに最初の3つの部門は自然科学分野でさまざまな応用で人類に大きな貢献をもたらした要素的発見/発明が対象となっています。

(*)正式にはアルフレッド・ノーベル記念経済学スウェーデン国立銀行賞

イメージ

 「青色LED」受賞のニュースを聞いたときに思ったことは、「ITがノーベル賞を受賞するとすれば、何賞なのだろうか?」ということです。コンピュータではありません。ITです。コンピュータという視点では、1947年に「トランジスタの発明」、2000年に「IC(チップ、集積回路)」が共に物理学賞を受賞しています。

 IT:Information Technology:情報技術は、コンピュータなどの要素を組み合わせ、「情報」という資源を的確にコントロールして、人類に大きな利用価値を創出するものです。社会やビジネスにITが普及し始めたときには、コンピュータという道具の活用形態に過ぎませんでした。普及/浸透から融合という状況に進化/深化した現在、融合という言葉の通り道具ではなくビジネスプロセスや人の行動/思考の一部(大部分)を置き換えてしまっています。過去がコンピュータを要素とした応用としてIT(システム)が存在していたのが、ITを要素とした応用としてさまざまなビジネスや生活などの活動が位置付けられるようになりました。ITが目的から要素に変わりました。

 「青色LED」がさまざまな分野で「人類が大きな利用価値を得る」要素としてノーベル賞に値したのですから、ITがさまざまな分野で「人類が大きな利用価値を得る」要素としてノーベル賞の対象となってもおかしくはない、資格は充分! これは何を意味するのか?...物理や化学などと同じようにITという分野が科学的見地で確立されてきているということなのかもしれません。コンピュータの活用から始まったITは、技術(Technology)主導で発展してきました。結果として現在のIT融合状況を創り出しました。この先は、ITシステムやサービスではなくプロセス自体の発展を担うのがITです。ここに人が中心であったプロセスを置き換えるための技術ではなく、ITとプロセスを一体とした科学の領域が出現しようとしています。普通「科学→技術→利活用(価値創出)」の順番であるに対しITは「技術→利活用(価値創出)→科学(更なる価値創出)」という順番で到達しようとしています。

 情報科学("Information Science"ではなく"Informatics")という言葉はすでに存在していますが、昨今のIT活用を考えると、情報の扱いに関する科学の域を超え、さまざまなプロセスを対象とする科学ということです。

 IT人財は、技術者というカテゴリーだけでなくサイエンティスト(科学者)のカテゴリーを融合しなければならないのでしょう。サイエンティストは特に物理や化学に代表されるような自然科学者を指します。しかし、ITは自然現象を基としてはいません。つまりお手本がない未知の領域の取り組みです。
 科学の心を持つIT人財の育成...ITはどこまで人財の幅を拡げさせるのか?IT人財育成を生業とする人間の悩みはつきません。

 ところで...ITが受賞するノーベル賞はどの分野なのか?

 ITの応用での受賞であるならば経済学賞、生理学・医学賞、平和賞あたりが候補となる可能性が高いと思いますが、ITそのものを対象として考えると現在は該当しそうな部門がありません。他の科学領域と同じように「人類が大きな利用価値を得る」要素でありながら、自然現象から学ばずに人類が創り上げた、ノーベル賞の枠にも収まりきれない要素がITなのでしょう。人類は、この偉大な財産を上手に使っていかなければなりませんね。

執筆者プロフィール

永倉 正洋

技術士(電気・電子部門)
株式会社 日立アカデミー
主幹コーディネータ
一般社団法人 人材育成と教育サービス協議会(JAMOTE)理事

日立製作所でシステムエンジニアリングの経験を経て、2009年に日立インフォメーションアカデミー(現:日立アカデミー)に移る。企画本部長兼研究開発センタ長としてIT人財育成に関する業務に従事。2011年以降、主幹コーディネータとしてIT人財に求められる意識・スキル・コンピテンシーの変化を踏まえた「人財育成のための立体的施策」立案と、 組織・事業ビジョンの浸透、意識や意欲の醸成などの講演・研修の開発・実施を担当している。

Facebook公式ページ Linkdin公式ページ YouTube公式チャンネル