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株式会社 日立アカデミー

第8回「人間力」とは何か?

-「人間力」開発のためのOJT(on-the-job training)-

2014年8月27日'ひと'とITのコラム

これまで"Made in JAPAN"の品質は、実務を通して先輩から仕事を学ぶ、いわゆるOJTを通して継承され保たれてきました。しかし、ITの普及と多様化が進み人財の育成・技術の伝承のスタイルが変わりつつあります。IT時代の今、OJTは一人ひとりが持つ「人間力」がキーワードになってきているのです。

社会やビジネスとITの融合が進むなか、IT人財には「IT力」だけでなく「IT活用力」が求められており、その実体として「人間力」が求められる、と本コラムで書いてきました。では、この「人間力」とは何で、どう育てていけばいいのでしょうか?  実は...「人間力」という言い方、使いながら「大変曖昧であり、その曖昧なものをあたかもわかった気にさせている」という後ろめたさもあります。「コミュニケーション力」「主体性」「傾聴力」「創造力」「実行力」「状況把握力」「推察力」「ストレス耐力」「シンキング力」「問題意識」「未来ビジョン構築力」「多様性受容力」「発想力」etc.・・・。色々な切り口、レベルが混在し、さらに互いが互いの要素として交錯しています。「コミュニケーション力」は「傾聴力」や「状況把握力」、さらには「ストレス耐力」などの要素が必要です。その各要素の量的/質的な求められ方は、遭遇している場面で変わります。例えば「コミュニケーション力」での「ストレス耐力」の求められ方は、気の置けない友人同士の場合とビジネスでの上司や顧客の場面では異なります。すなわち「人間力」とは、ひとつひとつの独立した要素を指すのではなく、人財が価値創出に取り組む場面毎に異なる、必要とされる要素の "配分"を的確に調整して相乗効果を発揮するための「力」なのではないかと思っています。各要素を身につけたり鍛えたりすることも大切ですが、この"配分"を状況に応じて臨機応変に変えることができる能力も重要だということです。

前回のコラム(第7回)で脳科学に触れました。脳科学からの示唆は、「人間力」を構成する要素は、後天的に身につき向上させられるものと、性格や資質、成長の過程での経験などによる先天的なものがあるようです。特に先天的なものは当人の「人間力」の基盤として大きな影響を及ぼします。さらに、無理矢理不得手なことを強制することになる「先天的な要素に大きく反する"無理強い"」は、脳にマイナスの負荷をかけることとなり「脳のコンピュータ」の原動力である「意欲」が削がれることにもなります。従って、「人間力」を重視するということは、「人間力」を育成の対象としてだけで見るのではなく、今まで以上に人財育成施策の実行のための要件として捉える必要があるということなのかもしれません。

コミュニケーションによる人間力

「人間力」はさまざまな要素の配分を的確に変化させることが必要と書きましたが、ではどのようにして育成するのか? 各要素のいくつかはすでに研修等が存在するようにOFF-JTでも学べるものもあります。しかし、臨機応変の配分能力は多くの"場面"を経験して学ぶことが必要となります。実フィールドの"場面"での育成(学習)というと、いわゆるOJTが浮かびます。  言うまでもなく、昔からOJTは存在しています。特に日本の企業の強みであった高い品質の実現と継続には、先輩の技術やスキル、ノウハウを、仕事の中でしっかり学び受け継ぐ・・・さらに後輩に渡す。このOJTの主たる目的は、辞書などで『従業員の職業訓練で、仕事の現場で実務に携わりながら業務に必要な知識・技術を習得させるもの』とあるように、組織運営の継続/維持をベースとした業務伝承と、それに必要となる技術/スキル/マインド/ビジネス基礎力の修得でした。さらに言うならば、確立されたプロセスの中で、一人一人に個性や考え方のばらつきが発生しないように"金太郎飴"状態を維持するものであったとも言えます。なぜならば、最適な品質を維持するためには、人という最も不確定な要素をいかに固定化するかが大切だったからです。この目的のための人財育成であり、プロセスにきちんと組み込める人財を輩出できました。  OJTの瓦解と言われて久しいですが、この原因は単純ではありません。しかし、品質一辺倒の時代の終焉という変化は、無視できない要因であると思います。

さて、先に述べたように「人間力」の修得には"場面"が必要です。形態上OJTです。では、過去のOJTの踏襲という考え方でいいのでしょうか?  多様性を認め多様性を新たな価値創出の源泉としなければならない時代、いかに多様性の層を厚くしていくのか? 従来にない斬新な価値を創出するためには、過去になかった「人間力」を糧にすることが必要です。すなわち「人間力」育成は、過去の経験を踏襲する"金太郎飴"前提ではなく、過去に無い/指導する側に無い「人間力」も育てることが必要となります。伝承としてのOJTではなく、育成の「場」としてのOJTです。組織の継続ではなく、従来にない価値創出の可能性を持つ人財の育成を主目的としたOJTです。従って、指導する側は「自らを目標とさせて、自らの経験を基とした指導」という"既知の解"を求めるだけでは立ちゆきません。"未知の解"を求める育成手腕が求められます。どういう「人間力」が求められ、どういう「人間力」を持つ人財がいて、どういう「人間力」を育成できるのか・・・、実際の業務環境でしか見ることができない要素から的確な方向性と方法を導出し、実際の業務環境で試行錯誤しながら実現していく。そこには、今まで以上に事業のマネジメントと人財育成施策の融合が求められます。

IT活用力が求められる時代は、ITという技術の開発と同じように「人間力」の"開発"が必要で、そのための純粋に人財育成という目的を持つOJTのあり方を真剣に考えなければならない時代を迎えています。

執筆者プロフィール

永倉 正洋

技術士(電気・電子部門)
株式会社 日立アカデミー
主幹コーディネータ
一般社団法人 人材育成と教育サービス協議会(JAMOTE)理事

日立製作所でシステムエンジニアリングの経験を経て、2009年に日立インフォメーションアカデミー(現:日立アカデミー)に移る。企画本部長兼研究開発センタ長としてIT人財育成に関する業務に従事。2011年以降、主幹コーディネータとしてIT人財に求められる意識・スキル・コンピテンシーの変化を踏まえた「人財育成のための立体的施策」立案と、 組織・事業ビジョンの浸透、意識や意欲の醸成などの講演・研修の開発・実施を担当している。

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