世代間および文化的な学習の違い
Amee 文化によって、学び方は異なります。日本ではグループ学習や対面学習が主流のようですが、欧米諸国では自主的なオンライン学習の方が抵抗が少ないようです。世代的な要素も考慮する必要があります。日本でも、若い社員はオンライン研修に慣れているようですね。文化と世代の違いによって、興味深い傾向が見られます。
田 中 そうですね。若い世代は情報の吸収方法が異なり、学習時間や内容を小さな単位に区切った形式に慣れています。LinkedIn ラーニングも、その志向に合わせて構成されており、1回1~3分のマイクロラーニングになっています。1時間のコースを修了すると修了証が発行され、オンラインに投稿することで、ソーシャルネットワーク効果が期待できます。例えばリーダーがコースを修了して投稿すると、チームメンバーはリーダーが学習したのと同じ内容を学びたいと考え、フォローするわけです。「ラウドラーニング」と呼ばれるこうした学習方法は、いつでもどこでも、ニーズに合わせて利用できます。実際、LinkedInのAIコーチングでは、課題に応じて学習コースを推奨することもできます。人々の学習方法は、急速に変化していると言えるでしょう。
Amee 日立のような複雑な組織では、世代や地域に応じてアプローチを適応させるという大きな課題に直面しています。ゲーム的な要素は若い従業員には効果的ですが、上の世代の従業員にとっては慣れ親しんだ方法ではありません。DXを進めているコネクティブインダストリーズ(CI)セクターを例に挙げると、勤務歴の長い従業員と新規採用の従業員が共存しています。全員がAIリテラシーを必要としていますが、求められるレベルは人によって異なります。LinkedInのラーニングパスは、同じコンテンツに対して異なる教育アプローチを柔軟に適用できるのでしょうか?
田 中 もちろんです。 LinkedInのAIは、学習者のプロフィール、経歴、過去の受講コースに基づきカスタマイズされた学習プランを提案します。同じプロンプトが与えられた場合でも、AIの提案内容は学習者の経験に応じて異なります。
川 村 世代間の学習スタイルの違いという話題に戻りたいのですが、若い従業員は適応力が高いかもしれません。しかし、鍵を握るのは中間管理職です。先ほど、管理職の学習や投稿内容が他の従業員の学習を動機づけるという話が出ましたが、実は中間管理職は最もアプローチが難しいグループです。若手ほど、ミニコースや自身の学習ニーズを満たす方法を探すことに慣れていないためです。
Amee 確かに日本では解決すべき課題ですが、他の地域ではそれほど深刻な問題ではないと思います。一般的に、海外の中間管理職は日本より高いITスキルが求められ、年齢構成も異なります。彼らはまだ若い世代とは異なる学び方をしており、LinkedIn ラーニングのコンテンツを体系的に組み込むブレンド型のアプローチが有効です。学習の一部を対面形式で行いながら、LinkedIn ラーニング上に明確な学習プランを設定するというブレンド型プログラムを構築すれば、自主的に学習しない人の学習意欲も高まる可能性があります。このアプローチでは、実質的には課題が与えられながら自律型の学習が可能です。
田 中 そうですね。管理職は、チーム管理、マネジメントスキルの習得、経営陣への報告など、大きなプレッシャーにさらされています。特に日本では、管理職が業務をより効率的に遂行するためのツールが必要です。例えば、LinkedInのAIロールプレイは、従業員のパフォーマンス向上や管理職としてのプレゼンスの強化を支援してくれるというコーチングツールです。実際のニーズに対応したツールは、組織に大きな好影響をもたらします。
自律型のキャリア開発とモビリティ
Amee 日立が検討すべきもう1つの重要な要素は、従業員自らが主導する自律型の人財育成です。LinkedIn ラーニングは、プログラムやスキルの構築に役立つプラットフォームですが、同時に人財を管理することから人財の能力を引き出すことへとシフトし、日立がこれまで苦手としてきた組織をまたがった人財共有に役立つプラットフォームでもあります。私はデジタル分野に従事してきたアメリカ人でありながら、歴史的に従業員の90%が日本人であるCIセクターに携わるという、ユニークな経歴の持ち主です。私たちは、従業員が自らの成長を主導し、自分にとって重要なことを特定して学び、日立を退職する代わりに社内で学んだことを活用してほしいと考えています。一貫性のあるツールは、共通のアクセスを通じて従業員に異動の機会を提供します。これは日立のこれまでの在り方、特に日本における在り方とは大きく異なります。
川 村 日本の従業員にとって、自律型の文化、キャリア構築、学習への移行は、非常に大きな変化です。先ほど述べたとおり、これまで日本のキャリア構築は100%企業主導型であり、自律型ではありませんでした。自律型への移行は、まさに地殻変動のような変化です。では、日本以外ではどうでしょうか? やはり大きな変化なのでしょうか、それとも既に進行中の変化がLinkedIn ラーニングのようなツールによって強化されるのでしょうか?
Amee 欧米では、自律型のアプローチが一般的です。欧米人は自分のキャリア管理に積極的で、興味のある分野は積極的に学ぶ傾向がありますが、会社が興味を追求するためのツールを提供しない場合、離職する可能性も高くなります。LinkedIn ラーニングは、キャリア開発と人財定着の両方に役立つツールです。欧米では一般的に、企業人が新しいことに挑戦するには、その企業を辞める必要があります。しかし、もし日立で興味深い学習機会が提供されれば、従業員が転職先を探す必要は無くなります。
田 中 全く同感ですね。LinkedInのCEO ライアン・ロズランスキーは、「最適な候補者は社内にいる」と言います。日立は多角的に事業展開しているため、社内異動によるキャリアチェンジが可能です。LinkedInラーニングは、スキルと経験に基づいた異動を促進します。
Amee 日立における異動の障壁は、事業部門間で仕組みが統一されていないことです。日立デジタル社や日立ヴァンタラ社では、各社異なるシステム上で、独自の福利厚生や研修ツールが提供されていました。人財プールは各社内に限定されており、従業員は日立グループ内での異動ではなく他社への転職を選ぶ傾向にありました。LinkedIn ラーニングを活用すれば、日立グループ内の異なる組織の間でも一貫したキャリア構築が可能となり、初めからやり直す必要は無くなります。組織間の異動は不安なものでしたが、グローバルなアプローチにより、従業員のキャリア全体を追跡できるようになります。
田 中 日立が人財を最大の資産として重視していることは明らかです。LinkedInのプラットフォームを活用することで、さまざまな事業を通じて成長し、事業の可能性を増幅させる大きな可能性があります。日立の人財には、もっと活躍の余地があるのです。
Amee 全くそのとおりです。日立の日本人従業員にとって、日立が自律型のアプローチへと進化を遂げ、社内のオープンポジションを提示している点は興味深いことです。また、先ほどお話したように、日本では従業員が退職する可能性がある場合、管理職にはこれまで慣れていなかったスキルが求められます。すなわち、求人募集をかけ、面接を行う必要が出てくるのです。これまでは人事が担当していたので、管理職にこのスキルは必要とされてきませんでした。一方欧米では、管理職は難しい議論や、採用プロセス、パフォーマンスコーチングの経験を積んでいます。LinkedInのプラットフォームは、こうしたビジネスの現実に応じてカスタマイズでき、従業員全員がそれぞれのペースで成長できるよう支援します。
川 村 日本におけるリーダーシップ研修について言えば、私は日本の管理職は海外の管理職と比べて楽な立場だったと思います。日本の管理職は、離職防止やキャリアについて考える必要がありませんでした。なぜなら、人財は割り当てられるものだったからです。しかし今、特に若手世代に対して、管理職は従業員の定着とエンゲージメントを考慮しなければなりません。これまでの日本とは全く異なる世界である一方、海外の管理職が長年苦闘し、既に上手にやれている領域です。
Amee 私はグローバルリーダーとして日本の従業員と協働する中で、日本におけるオフィス内の人間関係や力関係とその文化的背景について学ぶ必要がありました。ある方法を提案しても、そういうやり方はしないと言われてしまうのです。私たちがめざす変革には、複雑で微妙な人間行動の要素が絡んでくるのです。
川 村 日立アカデミーは、LinkedInを通じて管理職101のようなベーシックコースも提供する予定です。このコースでは、全ての管理職が持つべきグローバル基準のスキルを修得できます。いずれも日本が海外の管理職に大きな遅れを取っているスキルです。
田 中 自発的な学習とスキル開発によるキャリアオーナーシップへの意識改革が、今日本で必要とされる文化的変革ですね。
川 村 そのとおりです。そして、それこそ私たちが最大のインパクトをもたらすことのできる領域です。スキルや知識を超えた文化的な変革は、日本だけでなく他国の文化にも幅広い影響をもたらすでしょう。
Amee インド、中国、アメリカ、ヨーロッパ、それぞれ異なる雇用環境で働く人々は、コミュニケーションも学習方法もそれぞれ異なります。1つの方法で全てに対応できるわけではない。このことに、私たちは意識的になるべきです。私たちはこれまで日本に焦点を当ててきましたが、今後は、さまざまな文化を理解するグローバルチームを構築する必要があります。110年の歴史を持ち、確固たる存在を築き上げた日立のような企業にとって、独自のメリットを維持しながら変革を遂げようとすることは途方もない偉業です。
田 中 非常にダイナミックな変革ですね。こうした文化的変革の緊急性は、経営陣の中で共有されているのでしょうか?
Amee 徳永さんのメッセージは明確です。ロレーナ・デッラジョヴァンナ氏の起用、そして私自身の起用にも、その決意が表れています。今では外国人のシニアリーダーもたくさんいます。
川 村 先ほども話題に挙げました「Hitachi Global Leaders Kickoff 」は、日立にとって初のグローバルなキックオフイベントでした。日立の変化を示す一例です。
田 中 CEOの徳永さんは「One Hitachi」への新たな取り組みを始めているということですね。
川 村 「True One Hitachi」をめざしています。まだ到達はしていませんが、それが目標です。
Amee LinkedInラーニングのようなプラットフォームの活用は、日立のグローバルな進化を支えてくれます。日立の真にグローバルな取り組みのひとつとして特筆すべきものです。