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株式会社 日立アカデミー

2024

♯02

Academy Letters

進化する新人研修、
人財育成のイノベーションを
起こすために

古屋 星斗 氏
リクルートワークス研究所

馬込 由美子
日立アカデミー研修開発本部 担当本部長

人財獲得競争が激化する中、選ばれる企業になるために人財育成も進化する必要があります。今回は、若手人財の動向や働き方について研究を行う、リクルートワークス研究所 古屋星斗氏と日立アカデミー研修開発本部 担当本部長 馬込由美子が対談をしました。

若手人財の獲得競争激化、人財育成の課題が新たな局面に

馬 込 最近の採用のトレンドをどのように捉えていますか?
古屋氏 2010年以降国内の労働市場は売り手市場となっており、特に若い世代の採用が厳しくなっています。大学卒の充足率が75%を切っており、4人採用を予定していても3人しか採用できない状況です。さらに高校卒の場合は、バブル期を超えて採用競争倍率が4倍、一部の工業高校では20〜30倍になるほどです。

同時に経験者採用が増え、大企業の経験者採用計画数は10年で10倍になりました。以前は新卒採用と経験者採用の割合が9:1でしたが、現在は5:5になっています。背景には、日本において外部労働市場が成立しつつあり、転職で年収が上がりやすくなっていることがあります。40代で転職した人のうち40%以上が、転職後の年収が10%以上増加したという統計データがあり、若い世代であればなおさらよい条件で転職しやすい環境になっています。実際、2010年以降大企業でも就職後3年未満の離職率は上がり続け、現在は26%を超えています。

企業は、新卒採用・育成しても退職されるリスクがあることから、即戦力となる経験者採用を強化しています。では誰が人財を育成するのか? 今後、新卒採用の競争激化、その後の定着・育成の課題が顕在化すると予想します。

「会社が育てる」から「個人が育つ」時代

馬 込 日立グループは、これまでは新卒採用が中心だったこともあり、全員が同一に学ぶ研修を中心に人財育成をしてきました。しかし経験者採用が増えたこともあり、その時必要なものを自ら選んで学べるように、LXP(Learning Experience Platform)を導入し、学びのパーソナライズ化を進めています。基本的なことは一斉研修で学びますが、自分の業務に合わせて学べる環境を用意しています。
古屋氏 一括採用、一斉研修はおよそ100年前に現在のみずほ銀行の前身となる安田保善社が始めました。昼間は現場でOJT、夜は寮でOFF-JTで簿記の勉強などをします。職場と寮を組み合わせて、職業文化と組織文化の継承を同時に行うこの方法は、当時のイノベーションで、その後の日本企業の人財育成の基本となりました。しかし、現在はライフステージの多様化、人財の多様化により有効性が薄れています。

学びのパーソナライズ化は、時代の最先端を行く日立グループならではの選択です。「会社が育てる」から「個人が会社を使って育つ」に変わり、主体が個人になります。会社の使命は、個人の学びをいかに支えるかということになります。
馬 込 かつては、良い会社に入社して出世するという価値観が社会全般にあり、上司の言うことは絶対でした。しかし、現在は価値観が多様化し状況が変わりました。会社と自分の価値観が合わないと思えば辞められますし、やり直しができる、それが受け入れられる社会になりました。
古屋氏 私の調査では、3年未満で退職しても、その後のキャリア形成のダメージにならないという結果が出ています。やり直しができ、チャンスがまた来る社会です。一方で、育成に投資をして、試行錯誤する企業とそうではない企業で差がつくことになります。日本の人財育成の主流メソッドだったOJTは、企業間で差がつくものではありませんでした。しかし、経営戦略の一環として、人的資本経営が注目される状況で、人財育成に投資をして、第二のイノベーションを起こそうとする会社は成長するでしょう。

進化する新人研修、人財育成のイノベーションを起こすために

研修を通して「体験」するという価値

馬 込 仕事の内容も短期間で変化しています。5年後に今と同じ仕事をしている人は少ないでしょう。その点も時間をかけた育成をしづらくしています。日立グループでは、どの業務でもモチベーション高くパフォーマンスを発揮できるようなコンピテンシーを持った、変化に強い人財を育成することをめざしています。それは、日立グループの方向性を理解してチャレンジできる人財でもあります。そして私たち人財育成を担う部隊は、その時に必要な知識、スキルを学べる環境を用意しています。同時に、学んだことを活かせるようにプロジェクトの疑似体験ができる場を用意することがとても重要になってきています。
古屋氏 コンピテンシーやマインドを変えるには、体験や場が必要ということに同意します。仕事の内容が変わる中で重要なのは、曖昧耐性です。これは不確実なことに対する許容度であり、幅広い世代の社会人に必要なスキルです。同時に、一貫性へのこだわりを無くすことです。日本では一貫性が誠実さと捉えられて、面接で中学時代の体験まで遡るようなことがありますが、一筆書きのストーリーでキャリアを語る必要はなく、様々な考え、体験が個人を作っていることを受け入れる社会のほうがいいでしょう。大切なのは、今この瞬間、自分がどんな経験をすべきか言語化できることです。

場については、ラーニングコミュニティが必要です。国際調査において、日本の社会人は学びが乏しいという結果になっていますが、その原因の一つとして社会人の学びが、一人で取り組む学びで孤独であるという仮説があります。本来であれば、同じ目的で競い合いながら共に学ぶコミュニティが必要です。このコミュニティなしで、eラーニングで自律的に学ぶのは難しいのではないでしょうか。自律的な学びが成立するには、先に他律的な学びが必要で、最初はみんなで参加するようなことから始めるとよいでしょう。
馬 込 大変参考になります。知識は、書籍やeラーニングで身につけられますが、本人視点の理解でしかないので、他の人の視点が入ることで学びが深まることもありますね。

仕事でも日々学びがあるので、他の人のやり方を見て学べる環境があれば、会社の中で自然と育つことができ、強い組織になります。日立アカデミーのゴールは、日立グループ全体が強い組織になることであり、研修を提供するだけでなく、人が育つ環境を用意するのがミッションです。環境にはツールもありますが、人財を意識付けするような取り組みも含まれます。
古屋氏 その通りですね。100年前のイノベーションは、組織文化と職業能力を同時に身につけられる環境を用意していましたが、現代はやり方を変えないといけません。かつては男性が仕事の主体で家庭は女性が守るものだったので、休日の「合宿」や「社員旅行」で家を留守にすることも可能でしたが、現在は男女共に休日には参加できない人もいます。会社が人生の優先度のトップではない人も多いです。

職業人生において、5つの意思決定のタイミングがあります。私は、5大ライフキャリアイベントと呼んでいますが、それは次の5つです。

・退職
・副業兼業
・学び直し
・介護
・子どもの誕生

20代のうちにこのいずれかに直面する確率は70%を超えており、多くの人が大きな選択を余儀なくされます。選択の回数が増えて、イベントの発生する期間も短くなった結果として、会社が選択されるだけの成長機会を与えられるか、根源的な問題があります。
馬 込 キャリアの多様化を踏まえて、研修を大きく見直しをしています。これまでの新人研修は入社後数ヶ月かけて行い、その後2年くらいは実習などで学び続け、さらに定期的な研修を通して5−6年かけて育成をしてきました。これからは必要な時に学べる環境と、学んだことをアウトプットしてチャレンジする場を作ることを考えています。
古屋氏 場作りの視点は非常に重要です。OJTは現場のマネージャー任せですが、マネージャーに責任を負わせすぎずに、会社としての場作りの視点が欠かせません。

進化する新人研修、人財育成のイノベーションを起こすために

ダイバーシティの一つとしてのグローバル化

馬 込 職場のグローバル化についてもご意見をお聞かせください。日本とは文化が異なる人達と共に働くことで、ここでも相互を理解するための場作りが重要になっています。
古屋氏 多様な人財が集まって一緒に働くためには、言語化された明示的なゴールがグランドテーマとして必要です。それを決めることが最初のミッションになるかもしれません。共通の目標を持ち、多様性を巻き込み、統合・包摂するユナイテッドインダイバーシティの発想が大切になりますね。
馬 込 日立グループはかつては日本という同じ文化的背景を持つ男性が中心の企業でしたが、そこに女性が加わり、多様な価値観を持つ若い世代や外国籍の人財が入ってきています。グローバル化はダイバーシティの延長線であり、人それぞれの価値観を知り、理解することがますます重要になっています。
古屋氏 同感です。企業内に基礎となるようなコミュニティを新しい発想で再構築することが、学びとキャリアの自律につながりますし、様々な文化における組織の作り方、育成にもつながっていくでしょう。
馬 込 人財が変われば、職場の作り方も変わります。制度やルールなどは変えていますが、これまで長年勤めてきた方々の意識改革も重要です。うまく組織がまとまるような推進の仕方が必要で、現在は過渡期にあたります。
古屋氏 必要なのは対話です。グローバル人財も若手人財も思い込みではなく、話すことでわかることがあります。会社は対話を支える仕組みづくりが必要です。ある企業では、海外支社に育成専門管理職であるキャリアディベロップメントマネージャーを創設しています。このように管理職のタスクを分解して、支えるというやり方もあります。ただし、やり方の正解はまだわからないので、試行錯誤することが前に進むために必要です。人財育成における日立グループの取り組みは、日本、世界にとって重要なトライアンドエラーです。

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