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株式会社 日立アカデミー

オムニバス

- 今日この頃 思うこと -

2022年6月1日'ひと'とITのコラム

AIやIoTなどのデジタル技術が進展する中で、私たちの生活においてもAIやIoTを搭載した機器やサービスが浸透しつつあります。
囲碁・将棋AIがプロ棋士を相手に勝利したという話を聞きますが、AIが進化・浸透する時代において、人の脳のコンピュータはAIに対しどのような優位性があるのでしょうか?
今回のコラムはオムニバスでお届けします。どうぞお楽しみください。
(コラム担当記)

 残念ながらロシアのウクライナ侵攻は、終わりが見えません。
 このウクライナ侵攻絡みのマスコミ報道で、最近「情報のバイアスってこんな感じでかかっていくのか」と思えることがありました。5月9日のロシアの戦勝記念日、プーチン大統領がどのような演説を行うか、世界中が注目しました。日本でも多くのテレビ番組で取り上げられました。いくつかのポイントがありましたが、"特別軍事作戦"ではなく戦争状態となった旨の宣言をするか否かが取り沙汰されたことは、みなさんも記憶に新しいと思います。結局、戦争宣言はありませんでした。さてこの一連の流れ、今日現在みなさんはどのような解釈・印象を持っていますか?「プーチン大統領は、ロシア国内の状況や動向を踏まえ、戦争宣言をすることによる要らぬ軋轢を生じさせることを避けた。」このような受け止め方をしている人も多いのではないでしょうか。テレビ番組で専門家やコメンテータと呼ばれている人の多くがこのような解説をしていたのも事実です。しかし、この解釈は、「プーチン大統領は5月9日に戦争宣言をしようとしていた」ということが前提となります。「宣言しようとしたけれど取りやめた」ということです。では、「プーチン大統領が戦争宣言を行う」という情報があったでしょうか?この「戦争宣言を行う可能性」に関する情報はいつ出てきたのか?イギリスのベン・ウォレス国防相が5月1日のラジオ番組で語った「ロシアはたくさんの兵士を死なせているのだから、プーチン大統領が(兵士を)大量に動員する必要があると宣言しても私は驚かない。」さらに「根拠は薄いが、戦争宣言を行う情報もある」が最初です。この情報が世界中を駆け巡り、「5月9日にプーチン大統領が戦争宣言をするか」が大きな話題となりました。ここまでは「プーチン大統領が戦争宣言をするつもり」という情報は全くありませんでした。ロシアのペスコフ大統領報道官も、このような見方を一蹴していました。そして5月9日に宣言がなかったわけですが、多くの番組で「なぜプーチン大統領は戦争宣言をしなかったのか」が話題として提起されました。おかしいですよね?だってプーチン大統領は宣言するとは一言も言っていません。するつもりもまったくなかった可能性もあるわけです。5月9日以前の段階で一部の専門家から、「戦争宣言は英国防相の予測に過ぎない」として重視していない発言もありましたが、圧倒的少数派でした。ということは、宣言がなかった後の話題提起は「なぜ、プーチン大統領が戦争宣言をするという見方が外れたのか?」でなければならないはずです。このような論調は、私の知る範囲では全く耳目に触れていません。いつの間にか「なぜプーチン大統領は戦争宣言をしなかったのか」にすり替わりました。この結果、多くの人が「プーチン大統領は宣言するつもりだったけれどもやめた」というバイアスがかかった情報を、結果的に信じ込まされている状況が出来上がっています。
 この話の怖いところは、誰かが意図的に"誘導"したわけではない、ということです。では、なぜバイアスがかかってしまったのか?今回の始まりは、前述のウォレス国防相の発言です。この時多くの人たちはどのような"感覚"でこの発言(情報)に接したでしょうか?何しろ侵攻が始まって長い時間が経ちました。「戦争宣言でさらに戦闘が長引いて激化してしまうのではないか」という"不安"の感覚での受け止めもあったでしょう。逆に「実際に宣言が行われたとすると、それはロシアが苦戦を強いられている証ということなので、終戦・停戦が近づくのではないか」という"期待"のような感覚での受け止めもあったと思います。いずれにせよ、多くの人たちは(私も含め)、ウォレス国防相の発言(情報)を自分事のように捉えたのだと思います。この段階で不確かな情報が、あたかも事実であるかのごとく変貌しています。マスコミも関心が高い情報だったこともあり、事実であるかのように扱ってさらに膨らませました。すると「5月9日に本当に宣言するのか」は、単に事実確認だけではなく、自分事としての"不安"や"期待"の確認となります。そこまで感情移入すると、宣言がなかった時点で自分の"不安"や"期待"をどこかに落ちつかせる必要があります。マスコミも膨らませた手前、落とし所を探さざるを得ません。そこで「なぜプーチン大統領は宣言しなかったのだろうか、自分の不安(期待)は大丈夫なのか」といった感覚となり、そもそもの情報の不確かさはなかったことになります。言わば人々の"不安"や"期待"が架空の事実(らしきもの)を創り出したとも言えます。これはロシア側から見ると、西側諸国のプロパガンダと写るかもしれませんね。
 情報が自分事となると、ある意味やっかいです。常に第3者目線の感覚が、情報リテラシーとして必要なのかもしれない、と思う今日この頃です。

ラインイメージ

 ロシアは今回のウクライナ侵攻を"特別軍事作戦"と呼ぶことに固執しています。決して"戦争"とは言いません(言わせません)。これは偽旗作戦の前提を崩さないことや、ロシア国内の世論醸成のためなどさまざまな理由が混在していると思います。しかし、西側諸国では"戦争""軍事侵攻"という言葉を使っています。日々流される悲惨な状況の映像から、"特別軍事作戦"と"戦争"の違いなど微塵も感じ取ることは出来ません。しかし、ロシア国内向けには逆に、映像が"戦争"に見えてしまうから"特別軍事作戦"という呼び方が重要なんだろうと思います。"言葉"の持つニュアンスは、大変重いものです。
 我々は、結構"言葉"の辞書的な(正確な)理解だけでなくニュアンスで解釈・理解している場面が多くあります。例えば自動車の「ブレーキ」。「ブレーキ」の機能、役割は何ですか?と問われたら、どのように答えますか?日本では多くの人が「自動車を止めるための装置」と答えるのではないでしょうか。これは間違ってはいませんが正しくもありません。「日本では」と書いたのには訳があります。まず、国交省が定めるブレーキとは、「停止装置」となります。規定では「100km/h程度の速度から、決められたペダルの踏力で、決められた距離以内で止めること」が求められています。しかし、特にドイツを始めとするヨーロッパでは、ブレーキとは「速度をコントロールする装置」というニュアンスとなります。先ほど日本の規定では100km/h→0km/h(=止まる)が求められる機能と書きました。-100km/hです。ところがドイツではご存じの方も多いと思いますがアウトバーンの環境です。速度無制限(最近は制限区間が増えましたが、それでも200km/hは当たり前)の状況で、遅い車に追いついたときなど200km/h→100km/hの-100km/h減速することが必要です。するとブレーキの考え方も変わります。詳しい話は割愛しますが、ブレーキディスクと呼ばれる円盤の大きさ(面積)がヨーロッパ車の方が大きかったり、ヨーロッパ車の自動車のタイヤホイールが黒く汚れやすいなどの違いがあります。これは、ブレーキの考え方の違いの具体化によるものです。ブレーキにとって-100km/hは結構シビアな仕事です。-100km/hの後止まるのと、-100km/hの後100km/hで走り続けるのでは求められる機能や性能が大きく異なることは想像が付くと思います(例えば100km/hに減速後、すぐにまた急ブレーキをかけなければならなくなった場合、ほとんどの日本車のブレーキでは厳しいです・・・基本的には200km/hで走ることを想定していないですが・・・)。ちなみに広辞苑では『ブレーキ:①車両その他機械装置の速度・回転速度などを抑えるための装置。手動ブレーキ・真空ブレーキ・空気ブレーキなどがある。制動機。(②以下略)』となっています。すなわち、日本ではブレーキという言葉は辞書的な正確さではなく、自動車の規定的なニュアンスの方が浸透しているということになります。このニュアンスの違いはやっかいです。人によって異なります。相手がどのようなニュアンスを持っているかはわかりません。情報(データ)と"正しく付き合う"ためには気をつけなければならないことのひとつでしょう。
 ブレーキつながりでもうひとつ。
 日本の鉄道で在来線の最高速度を引き上げようとしたときに、大きな壁として立ちはだかったのが「止まる」性能です。例えば常磐線は、現在130km/hの最高速度で運転されています。もともと120km/hだったものを+10km/hとするのですが、ここで問題となったのが「600メートル条項」と呼ばれる規則です。2002年までは「鉄道運転規則、現在はこの規則は廃止されて「鉄道に関する技術上の基準を定める省令第106条の解釈基準」によります。この条項は、簡単に言えば『踏切など線路を支障する設備がある場合は、列車に非常ブレーキをかけてから600m以内に停車させなければならない』というものです。これが結構大変です。電車などの車両を速く走らせる側の技術は、新幹線が安全に走っていることからもわかるように確立されています。しかし、止まる側の技術は「600メートル条項」に触れるような速度で運行されていなかったのであまり必要とされていませんでした。ちなみに踏切などの支障物が存在しないことが新幹線というシステムなので、「600メートル条項」は適用されません(新幹線では、先日の福島の地震での脱線事故の例もあるように、地震発生時にできる限り早く止めるための技術開発は、盛んに進められています)。同様に第三セクターの北越急行ほくほく線(北陸新幹線開業前)や湖西線、成田スカイアクセス線で130~160km/hの最高速度で運行しているのも、踏切等がないので適用外となっています。しかし、こういう条件が整っているのは新設の路線だけなので、常磐線などの在来線で「600メートル条項」をクリアするために、止めるための技術を進化させるなどして実現にこぎ着けました(これも蛇足の話ですが、山形新幹線や秋田新幹線は、踏切等があるので規則上は新幹線ではなく在来線で、最高速度は「600メートル条項」適用により130km/hとなっています)。
 さて、列車の最高速度を高めるためには、全く逆の止める技術の実用化が必要不可欠であると述べました。同様に自動車整備にたずさわっている友人は「自動車整備のキモは、走ることより止めること」と話していました。安心・安全につながる重要な要素であり考え方です。さて、利便性という価値を高めるIT活用。IT活用の"最高速度"はどんどん上がっています。IT活用には「600メートル条項」は必要ないのでしょうか?IT浸透の黎明期は利用範囲も限られていて、言わば"踏切のような支障物がない領域"で使われていたので大事故とならずにやってこれました。しかしIT活用の範囲が一般化して"踏切などが当たり前にある領域"で使われている今、"止まる技術"がないまま走り続けるという現実を、今一度確認することが必要なのかもしれない、と思う今日この頃です。

ラインイメージ

 最近いくつかのテレビ番組で取り上げられていたのが、味覚センサーとAIを駆使した「最強の食べ合わせ」です。人は、食の基本味(甘味、酸味、塩味、苦味、旨味)5つのうち3つが揃うと「美味しい」と感じることから、基本味をセンサーで見える化してAIが3つ揃う食べ合わせを考えます。基本味が4つ以上揃うとぼやけた味となって美味しさを感じないようです。では、AIはどんな食べ合わせを考えたのか?一部を紹介すると・・・

  ・ベーコン+チョコレート     ・味噌+チョコレート
  ・インスタントラーメン+プリン  ・冷やし中華+マーマレードジャム
  ・餃子+いちごジャム       ・カレー+ピノアイス
  ・フライドポテト+あんこ     ・キムチ+みたらし団子
  ・エビ天+チョコレート      ・バナナ+しらす
  ・みそ汁+チーズ         ・ロースハム+バウムクーヘン
  ・卵焼き+アーモンドチョコ    ・麻婆豆腐+インスタントコーヒー
  ・納豆+プリン          ・梅干し+牛乳
  ・冷やし中華+マーマレードジャム ・マカロニサラダ+バニラアイス

 いかがですか?ほとんどの方が「えぇ~! 本当!?」ではないでしょうか?
 テレビでは当然いくつかを用意して、出演者に食べてもらっています。その反応は「意外に美味しい!」とか「いける!」でした。ま、番組での企画ですからどこまで本音なのか・・・という疑いは拭えませんが、ネットを調べてみると「結構良い」というものもあります。例えば「ベーコン+チョコレート」、これは数年前にすでに紹介されていて、大手ウィスキーメーカーも「お奨めのおつまみ」として紹介しています。また、アメリカではベーコンに限らず「肉+チョコレート」が多く見られるとの情報もありました。「インスタントラーメン+プリン」は、実際に試した人の感想がネットに出ています。この人曰く、最初塩ラーメンで試してみたけれど、これはNG(美味しくない)だったそうです。次に味噌ラーメンで試した感想は、「(プリンが)おぼろ豆腐のようになって、味噌のトゲトゲしさが消え、まろやかさが増します。絶賛するほどの美味しさではありませんが、なかなかいけます。」とのことです。興味がある方は試してみて下さい。
 さて、先ほど多くの人は「えぇ~! 本当!?」と思うのではないかと書きました。私もそのひとりです。なぜそう思うのか?まだこの食べ合わせの経験がないのですから、味覚から来た感想ではないと言うことです。実は人が「美味しい」と感じる要素は5つの基本味だけではありません。「形や色」「香りや風味」「食感」「温度」なども関係すると言われています。例えば「餃子+いちごジャム」、まず餃子にイチゴジャムをつけている(塗っている)ところを思い浮かべますよね。ここに大いなる"違和感"を感じます。ある意味"見た目"の想像から「えぇ~!」という印にとなります。
 この"違和感"の根底にあるのは、恐らく"常識"というやっかいな代物でしょう。餃子にイチゴジャムをつけている(塗っている)のは「普通ではない≒常識から外れている」ということです。人間には思いつけない理由がここにあります。
 今の時代、新しいアイデアやイノベーションは前例がない、普通では思いつかない、普通は真似しない、などの枕詞が求められています。すなわち"常識から抜け出す"ことが必要ですが、これがなかなか人には出来ない・・・。まさしく先ほど例示した食べ合わせは「新しいアイデア」です。常識知らずのAIだからこそ、恥ずかしげもなく提案できるということです。AIが進化・浸透している時代、人の脳のコンピュータの優位性は

  ・意思がある          ・知覚がある
  ・事例が少なくても対応できる  ・問いを生み出せる
  ・枠組みをデザインできる    ・閃きがある
  ・常識が理解できる       ・人間を動かすことができる

 と言われていますが、「常識が理解できる(≒常識に縛られる)」は優位点ではなく弱点となり得る場面もあると言えそうです。  これからの時代は、IT(AI)と脳のコンピュータの融合が求められます。融合は互いの強みの融合という側面と、弱みの補強という側面があります。常識にとらわれてしまう脳の弱点をAIが補い、AIの弱点である「(例えば)見せ方の感性」を脳のコンピュータが補うと言ったパートナー関係が、これからの時代のひとつの姿なのかもしれない、と思う今日この頃です。

 さて、今晩は餃子にイチゴジャムです・・・

執筆者プロフィール

執筆者 永倉正洋氏

永倉 正洋 氏

技術士(電気・電子部門)
永倉正洋 技術士事務所 代表
一般社団法人 人材育成と教育サービス協議会(JAMOTE)理事
Mail:masahiro.nagakura@naga-pe.com

 

1980年 日立製作所入社。 システム事業部(当時)で電力情報、通信監視、鉄道、地域活性化などのシステムエンジニアリングに取り組む。
2003年 情報・通信グループ アウトソーシング事業部情報ユーティリティセンタ(当時)センタ長として、情報ユーティリティ型ビジネスモデル立案などを推進。
2004年 uVALUE推進室(当時)室長として、情報・通信グループ事業コンセプトuVALUEを推進。
2006年 uVALUE・コミュニケーション本部(当時)本部長としてuVALUEの推進と広報/宣伝などを軸とした統合コミュニケーション戦略の立案と推進に従事。
2009年 日立インフォメーションアカデミー(当時)に移り、主幹兼研究開発センタ長としてIT人財育成に関する業務に従事。
2010年 企画本部長兼研究開発センタ長として、人財育成事業運営の企画に従事。
2011年 主幹コーディネータとしてIT人財に求められる意識・スキル・コンピテンシーの変化を踏まえた「人財育成のための立体的施策」立案と、 組織・事業ビジョンの浸透、意識や意欲の醸成などの講演・研修の開発・実施に従事。
2020年 日立アカデミーを退社。
永倉正洋技術士事務所を設立し、情報通信技術に関する支援・伝承などに取り組む。日立アカデミーの研修講師などを通じて、特に意識醸成、意識改革、行動変容などの人財育成に関する立体的施策の立案と実践に力点を置いて推進中。

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