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株式会社 日立アカデミー

ITという言葉?

- 言葉の変化から今を見る -

2018年2月28日'ひと'とITのコラム

もはや幼稚園や保育園でのタブレット導入が特殊ではない時代です。
携帯電話やパソコンにふれたことのない子どもたちも、タブレットを使用して自然と遊びや学びを体験します。好奇心旺盛な子どもたちはいとも簡単にタブレットのアプリケーションを使いこなし、お絵かきをしたりものを作り上げていきます。
10年前とはIT機器の使われ方も様変わりしていますね。
言葉は時代を反映します。ITという言葉にも変遷があるのでしょうか・・・
(コラム担当記)

 外国の少女が、自転車で色々なところに行きタブレットを使う。 最後に芝生で腹ばいになってタブレットを使っていると、隣の人が「コンピュータで何しているの?」と聞かれると、少女が「What's a computer ?(コンピュータって何?)」と聞き返す。

 昨年12月から放映されているAppleのiPad Proを使いこなす少女のCMです。 ご覧になった方も多いのではないでしょうか。 このCM、ネットでは色々な議論を醸し出しているようです。 このCMを観て思ったこと・・・「ITという言葉は、いつから当たり前になったんだっけ?」。

 昔、ITという言葉は使われていませんでした。 何と言っていたのか・・・ 「電子計算機」であり「コンピュータ」でした。 今で言う「IT××部」というIT部門は、多くの企業では「電子計算機課(電算課)」と呼ばれていました。 しかも当初多くの企業では「経理部 電子計算機課」でした。 最初に"お金"に関わる業務から計算機が導入されていたことがわかります。 計算ではなく情報処理が目的であるにもかかわらず「計算機」という言葉、矛盾に満ちており「計算しない計算機」などとも言われていました。

 「電子計算機」導入が拡大すると、扱われる情報(データ)が増加しその管理業務が重要かつ膨大、複雑となってきました。 この結果、組織名は「電算課」から「情報管理部」へと変化したところが多くなりました。 この名前から読み取れることは二つ。 計算機と言う言葉が消えたこと、そして多くの企業で「課」から「部」になったことです。 前者は、コンピュータの浸透が進み、それまでは主役であったコンピュータが黒子(脇役ではありません)となり、主役の座は「情報」となった表れでしょう。 ただし、この頃の「情報」とは今で言う「データ」に近いものでした。 後者の「課」から「部」は、コンピュータの重要性増大と関わる人員増大から、当然の結果と言えるでしょう。

 「電子計算機を導入する」はやがて「(情報)システムを導入する」という言葉に変わりました。 プログラムの開発規模が大きくなり、注目の対象がハードウェアからソフトウェアに変わりました。 本来「システム」とはハードウェア、ソフトウェア関係なくさまざまな要素によって構成されているのですが、「(情報)システム部」の名前が意味するところは、実質的には「プログラム開発」でした。

 変遷は「電子計算機」⇒「データ(情報ではない)」⇒「プログラム」です。 この頃のIT活用の主たる対象は企業などの組織でした。

 

 さて、ITと言う言葉はいつ頃から使われたのか? おそらく絶対的な正解は難しいですが、2000年に森首相(当時)が、国会の所信表明演説でe-Japanに触れたところでITをイットと読んでしまい、一躍有名になったとも言われています。 「IT革命」という言葉が同年の新語・流行語大賞に選出されています。 2006年にはe-Japanの理念を受け継いだu-Japanが立ち上がり、ユビキタス社会の実現に向けたICT政策が動き出します。 ちなみにe-Japan:経済産業省:IT、u-Japan:総務省:ICTでした。 経済産業省の管掌はコンピュータ主体であるのに対し、総務省は旧郵政省の通信施策も管掌でしたのでCommunicationのCが入ってICTとなったようです。

 e-Japanとu-Japan(以下両方をx-Japanと称します)は、企業内でのIT戦略より社会全体、とりわけ生活シーン中心にIT戦略を構想したものです。 x-JapanがITの価値を一気に生活者に拡げるきっかけを作ったとも言えます。 ここが組織以外でのIT普及の原点とも言えるかもしれません。 すなわちITという言葉は、コンピュータの価値が社会に拡がった状況を前提としている言葉にも見えます。

 

 ITとは言うまでもなくInformation Technologyの略です。 このInformation:情報とは何なのでしょうか? 前述の企業に出現した情報システム部の情報と同じなのでしょうか?

 企業のコンピュータシステム活用黎明期の注目要素は、コンピュータ(ハードウェア)とプログラムでした。  『プログラム=データ+アルゴリズム』と言われていて、データはプログラムの一要素で、 主役はプログラムです。 しかも当初は人手の業務の一部をコンピュータで"支援する"ことが主目的でしたので、それまで存在していたデータの管理が人からコンピュータに変わった程度の認識で充分でした。

 コンピュータの導入が「活用」というレベルから「普及」、「浸透」というレベルに進化すると、人手の業務では扱っていなかったデータが出現し始めました。 しかもそのデータが新しい時代のビジネスになくてはならないものになってきました。 例えば日報が時報、さらには実時間データに発展したように、データが高精細かつ高頻度になることで業務の質を飛躍的に向上させました。 コンピュータによる業務品質の向上です。 データは単なるデータではなく情報に昇華しました。 情報の重要性が多くの現場で認識されました。 すなわち企業では、コンピュータ→プログラム→データ→情報という変遷が、関与者全員に見える形で進んだと言えるでしょう。

 

 x-JapanによるITの浸透はどうでしょうか?

 x-Japanの気運を高めた社会の基盤的要素は、2000年に4600万人の利用者となったインターネットの普及や、携帯電話であると言っても過言ではないでしょう。 社会、とりわけ生活者にとってITは、コンピュータやプログラムではありません。 それらが扱う情報にしか興味はなかったのでしょう。 計算機やプログラムといったことに目を向けるのは、ごく一部の人たちだけでした。 もしかすると情報すら見えていなかったかもしれません。 携帯電話は電話の機能よりはメール(ショートメール)が主として使われていました。 このメール、「手紙」の派生形ではなく音声通話の文字化として使われていました。 新しいコミュニケーション様式の誕生であり、多くの若者はコミュニケーション手段をこれに集約させました。 携帯電話を電話やメールの端末ではなく単にコミュニケーションツールとしてだけで見る人の誕生です。 コンピュータやプログラム、システムといった仕組みや仕掛けが見えなくなり、これら仕掛けや仕組みが創出する"価値"だけを見て感じる現在の状況に直結する歴史の始まりだったのでしょう。 社会でITという言葉が使われたときの「情報」は、生活の中の価値を生み出す手段としてほとんど意識されていないものだったのかもしれません。

 

 冒頭で述べたAppleのCM。 少女は今時の人、隣から「コンピュータで何しているの?」と聞くのは年配の女性。 年配の人はIT機器を十把一絡げでコンピュータと呼んでしまう。 今時の人はIT機器(=端末)を意識していない。 時代の変遷が象徴的に表現されています。

 

 では、ITと言う言葉の次に来る言葉は何なのでしょうか? このような予測そのものが意味ない時代を迎えるのかもしれませんが、無理矢理考えてみると、データが情報に、情報を使うのは知能、知能は脳のコンピュータの出力、知能を形式知化したのは知識。 社会そのものが知識社会(知的創造社会)と言われていることからもKT(Knowledge Technology)辺りなのでしょうか。 いずれにせよ、脳のコンピュータが組み込まれた概念に向かう気がします。

執筆者プロフィール

永倉 正洋

技術士(電気・電子部門)
株式会社 日立アカデミー
主幹コーディネータ
一般社団法人 人材育成と教育サービス協議会(JAMOTE)理事

日立製作所でシステムエンジニアリングの経験を経て、2009年に日立インフォメーションアカデミー(現:日立アカデミー)に移る。企画本部長兼研究開発センタ長としてIT人財育成に関する業務に従事。2011年以降、主幹コーディネータとしてIT人財に求められる意識・スキル・コンピテンシーの変化を踏まえた「人財育成のための立体的施策」立案と、 組織・事業ビジョンの浸透、意識や意欲の醸成などの講演・研修の開発・実施を担当している。

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