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株式会社 日立アカデミー

「ITの進化」と「IT活用の進化」

-手段ではなく価値で考えることの大切さ-

2017年4月13日'ひと'とITのコラム

ものがあふれる時代。ものの豊かさよりも心の豊かさが大事にされるようになりました。
世間で評判になっているものをほしい、自分が興味のあるものを手に入れたい、というように、ものを所有することに価値があると考えられたのは一昔前。
昨今は、自分にとって貴重な経験をしたい、やったことがないことに挑戦したい、というように、経験や体験をすることで自分の心を豊かにできる、そこに価値があると考えるひとが多くなっているようです。
つまり社会生活において私たちの価値観は変化しています。
では、IT社会における価値観とは? (コラム担当記)

 今年起きた文部科学省での事件、というと天下りの印象が強いのですが、この直前にITに関してニュースになったことがあります。 覚えている方もいるのではないかと思いますが、公表前の人事情報をメールで周知してしまったというものです。 公表情報によれば、原因は直前にメールシステムを入れ替えたことによる操作ミスだったようです。 こう言っては何ですが、起こりがちのことです。 ネット上でIT関連ニュースの記者が文部科学省の担当者にインタビューしている記事を読みました。 この再発防止策に関するやり取りが印象的でした。 再発防止策は「今後、人事情報を始めとする"重要情報"は、メールを使わずに"紙"ベースでやり取りを行う」というものでした。 この策、みなさんはどのような印象を持たれましたか? 多くの方は「この時代に"紙"?!」ではないでしょうか? このインタビューでも記者の発した言葉「"紙"とは、時代の逆行ではないでしょうか?」でした。

 話をがらりと変えます。 自動車に関心がない人にはどうでも良い話なのですが、しばらくお付き合いください。 車のエンジン構造にはいろいろな種類があるのですが、DOHC(Double OverHead Camshaft)、SOHC(Single OverHead Camshaft)、OHV(Over Head Valve)というものがあります。 1979年代の大衆車のエンジンは多くがOHVやSOHCで、 DOHCはスポーツ志向の高性能車向けでした。 単純に言えばSOHC、OHVに比べDOHCは部品点数も多く大きくなりがちで製造コストもかかります。 しかし、高性能です。 1980年前後にあるメーカーがコストを大幅に下げることを可能とし、多くの大衆車に搭載し始めました。 この時の売りは「高性能を身近に手に入れられる」です。 当時はものの時代です。 ものの技術革新は、それだけで価値観⇒満足感につながりました。 一旦高性能なものが身近になると、それまでのものは陳腐化します。 しかし、これはよく考えるとものが陳腐化したのではなく、陳腐化したというイメージだけなのかもしれないのですが。 今、車に求められるものは多様化しましたが、特に環境への配慮が強く求められます。 燃費や排気ガスのクリーン化です。 この対応にはエンジン本体での取り組みだけでなく補機と呼ばれるエンジン周辺のさまざまな機器が必要となります。 この結果、エンジンルームに効率よく収めることが難しくなってきます。 スペースを確保するにはエンジン本体を小さくすることが有効です。 DOHCタイプよりSOHC、OHV対応の方が小さくすることが出来ます。 しかし、高性能のイメージが伴ったDOHCからSOHC、OHVに変えることは、購入する側は「ダウングレード」すなわち「技術の後退」という感覚を与えることにも繋がります。(車のエンジンは、技術の継続性と言った提供側の事情もありますが・・・)

 

 さて、二つの話を書きました。 共通するのは技術が進歩している時に、過去の技術ややり方に戻ることに対する"抵抗感"というやっかいな気持ちが存在すると言うことです。

 ITの進化は、世界最初の汎用電子式コンピュータと言われるENIACがアメリカで稼働したのが71年前の1946年。 我々のさまざまな活動にITが身近となってまだ30数年。 急速な進化を遂げています。 しかしこの進化、大きな変曲点がありました。 昔、ITの進化に関するニュースは、「世界最速のCPU(central processing unit)開発!」、「これまでの5倍の記憶密度を実現!」、「動画をスムーズに再生できる通信速度を提供!」等々、ITと言う技術の進化そのものが話題となっていました。 この時代、IT活用が普及しITに対する期待がITという技術を上回っていました。 つまりIT進化は、いかにニーズに近づけるか、ということに主眼が置かれていました。 ITという技術の進化が期待に応えるためのすべてであり、技術の後戻りはまさに「時代の逆行」です。 いわば「IT進化の時代」だったのでしょう。 ITに限らず技術の進化と技術の普及が進むと、技術がニーズに追いつき、ニーズに応じて既開発の技術を選択する時代となります。 最新/最先端の技術を使うかどうかもニーズしだいです。 使う技術の選択が目的ではなく、得たい価値に対して最適な技術を選択する、「IT活用の進化」が求められます。

 IT活用で得ていた価値が最適とならなくなったときに、ITという技術の進化に答えを求めるのもありでしょう。 しかし、時間とお金がかかります。 IT活用の進化による「選択」で、ITを使わないという昔返りの方がベストであるならば、堂々と戻れば良いのだと思います。 「手段の逆行」かもしれませんが、決して「価値の逆行」ではないはずです。

 最近のエアコンの宣伝ではないですが、新しいものの方がお得、こういう領域も多々あります。 人は結構"新しいもの好き"でもあります。 しかし、今の飽和の時代、手段ではなく価値で見ることの大切さを今一度認識することも求められている気がします。

執筆者プロフィール

永倉 正洋

技術士(電気・電子部門)
株式会社 日立アカデミー
主幹コーディネータ
一般社団法人 人材育成と教育サービス協議会(JAMOTE)理事

日立製作所でシステムエンジニアリングの経験を経て、2009年に日立インフォメーションアカデミー(現:日立アカデミー)に移る。企画本部長兼研究開発センタ長としてIT人財育成に関する業務に従事。2011年以降、主幹コーディネータとしてIT人財に求められる意識・スキル・コンピテンシーの変化を踏まえた「人財育成のための立体的施策」立案と、 組織・事業ビジョンの浸透、意識や意欲の醸成などの講演・研修の開発・実施を担当している。

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