-ITのフィールドでは世代の違いとどう付き合うか-
2015年3月4日'ひと'とITのコラム
『十年一昔』という言葉がありますが、ITに関して言えば、5年でもその技術には大きな差があります。そうなると、それぞれの世代で感覚や常識のズレを感じるのは当然のことかもしれません。しかし、ITの進歩は紛れもなく旧人の功績であり、今の若手もいずれは旧人となるのですから、人財を育成するにあたっては、互いの歩み寄りが必要かもしれませんね。
IT人財に求められる素養は、IT力だけでなくIT活用力、すなわちさまざまな人間力であることはこのコラムでもたびたび触れてきました。
魯迅曰く、「ものは比べてみなければわからない」。理解のために比べるのは、ヒトだけが持つ能力のようです。この能力、多様性が深まる過渡期である今の時代、やっかいな能力であるとも言えます。
「今の若い人は~」、「昔の人は~」という言葉で始まるフレーズを使いたくなるときは、ほとんどが自分の経験をベースとした「常識」を判断基準とし、その常識とギャップを感じた時にその原因を納得させるために使っているのではないでしょうか。
このコラムでも世代間のギャップについて何回か触れてきましたが、最近も「今の若い人は自信がない。どうすれば自信を持たせることができるだろうか」という話を聞きました。日頃はけっこう自信を持っているのだけれど、トラブルの発生など前例がない事態に遭遇した途端、かなりの落差で自信がなくなるようです。これにはうなずく人も多いのではないでしょうか。では、彼らに真正面から自信を持たせるための育成手段を採ることがベストなのでしょうか?
少し前までは、年代差による感性や常識の違いは今ほど大きくはありませんでした。時代の流れ、それに伴う社会/文化の変化がゆっくりだったのでしょう。「何を考えているのかわからない」という世代差は20世紀から21世紀初頭は10歳位だったのが、今は2~3歳のようです。社会が豊かになりグローバリズムが進むことで多様性が認知され受容しやすくなり、それをITが加速させた結果なのでしょう。
では「今の若い人は自信がない云々」これにどう向き合うべきなのか・・・。
まず気づくことは、これからの社会で必要となる"自信のレベル"を考えることが必要だ、ということです。社会の利便性や文化・常識が変わってきた中で、求められる自信のレベルは変わっていないのか。これを見誤ると過去は当然であった自信のレベルが、今の時代では自信過剰となるのかもしれません。自信過剰はリスクもあります。この辺の話の深掘りは別の機会に譲ります。
もう一つ気づくこと、それは自信がない というのは原因なのか現象なのか、ということです。先に触れたように、日頃は自信があるがイレギュラーなことが起こると自信喪失・・・、先が見える状況では自信を持てるが先が見えないと自信がなくなる。先が見えないときに感じるのは不安です。では、不安を払拭するためにはどうするか。
色々調べてできるだけ先が見えるようにする。しかし、前例がない場合は、わずかな情報から予測/想像して不安を減少させる、という行動を執ります。
すなわち、想像力が自信を左右する場合もあるということです。では、今の若い人は想像力のレベルが相対的に低いのでしょうか?
それは昔の人よりもダメ・・・能力や意識が低いということなのでしょうか?
想像力や色々な意識は子供の頃からの成長過程で、さまざまな経験を通じて養われてきます。
ITとりわけインターネットが当たり前の時代に育ってきた人は、何事も調べればすぐに情報を手に入れることができるのが標準です。
何か新しいことをやろうとしたときに「知らずにやる」ではなく「知ってからやる」というのが当然です。
このことが、若い人は「学んでからではないと行動できない」という特徴を形成したともいえるでしょう。
先が見えないという不安を払拭するための情報が手に入るわけですから、わずかな情報から想像しなければならない、という場面に遭遇することがほとんどありません。
ある意味恵まれているわけです。 ITの活用場面の拡がりは、特に生活者にとっては利便性の向上が最たる価値です。
想像する機会が少なくて済む、というITが作り出した環境で今の若い人達は成長してきたのですから当然の結果です。
そして、この状況はますます進化/深化していくことでしょう。これは環境の変化であり、このことだけで善し悪しを論ずる問題ではないのです。
IT人財育成のフィールドで言うなら、昔のIT人財がITの普及を推進させたことで昔の基準からは異なった新しいIT人財が育つ環境を作り出し、その結果"嘆き節"を吐露せざるを得なくなっている、という矛盾の連鎖を引き起こしたとも言えます。
常識とは、「ある社会で、人々の間で広く承認され、当然もっているはずの知識や判断力」ということです。若い人が多数派となれば必要とされる想像力のレベルは、今まで必要とされてきたレベルでは過剰であり、今の若い人のレベルが適切となるのでしょう。そもそも社会システムが利便性向上という形で想像力を必要としない環境をめざしているのですから、先の事例のようなトラブルや前例がない事態が発生したときに、ビッグデータなどの活用により先を見せるための仕掛けがIT活用により整備されるのでしょう。
ITは人の育つ環境を変え、その結果常識や必要とする人間力のレベルを変化させています。この環境を作るIT人財には環境がない時の常識や人間力が求められるということです。そこには旧人と若い人の歩み寄りが必要です。IT人財育成の特徴と言えるのかもしれません。 やっかいです・・・
「今の若い人には想像力がない」と断じる前に、どのレベルのどのような想像力が必要なのかから考えなければなりません。ITを社会の中に浸透させた結果、人の成長がどのように変わり、どのような素養を身につけなければならなくなったのか、というところまでIT人財は考えなければならないということなのでしょう。
世代の違いときちんと向き合うことは、IT洞察力を身につけるための糧になるのかもしれません。
技術士(電気・電子部門)
株式会社 日立アカデミー
主幹コーディネータ
一般社団法人 人材育成と教育サービス協議会(JAMOTE)理事
日立製作所でシステムエンジニアリングの経験を経て、2009年に日立インフォメーションアカデミー(現:日立アカデミー)に移る。企画本部長兼研究開発センタ長としてIT人財育成に関する業務に従事。2011年以降、主幹コーディネータとしてIT人財に求められる意識・スキル・コンピテンシーの変化を踏まえた「人財育成のための立体的施策」立案と、 組織・事業ビジョンの浸透、意識や意欲の醸成などの講演・研修の開発・実施を担当している。
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