-新入社員が企業内で最先端の社会感覚を持っている-
2014年3月20日'ひと'とITのコラム
今年ももうすぐ新入社員を迎える時期がやってきます。ある研究機関によると、2013年度の新入社員のタイプは『ロボット掃除機型』だそうです。来年度はどのような人財が入ってくるのでしょうか。今回は筆者の体験談も織りまぜながら新世代との関わり方についてお話しします。
入社式の時期となりました。新入社員にとっては人生の大きな節目です。私もいまだに1980年の入社式のことは鮮明に記憶に残っています。 当時の日立製作所の入社式は発祥の地である茨城県日立市で行われていました。前日の3月31日の夕方、上野駅集合、臨時の団体列車(電車ではありません。電気機関車(EF81)が引っ張る客車(12系)です)に乗せられ、都会から住宅街を抜け、利根川を渡ります。車中では「また、利根川を越えられるのは何人なのか?」といった不安混じりの会話にため息が覆い、田園風景に馴染んだ頃日立駅着。低いビルが並んだ駅前の印象が強く残っています。入社式の会場は寒流の影響で底冷え、2日目からはワイシャツの"下に"セーターを着込みました。2週間の研修(集合研修と呼んでいました)は、講話、座学、事業所視察、消防隊訓練・・・、学生というアマチュアを社会人としての最低レベルに、日立製作所の文化の中でやっていける日立人としての最低レベルに育てるカリキュラムだったのだと思います。確かに、Before/Afterで学生気分が企業人としての覚悟に変わった気がします。学生までの常識は捨て連綿と受け継がれてきた日本の、日立製作所の企業人としての常識を身につける。大人になった気がしました。
当時の社会はゆっくりと動いていて市場予測もある意味容易な時代。日本の強さは「高品質で低廉」。企業はプロセスを最適化してこれに臨んでいました。さまざまな創意工夫を経て確立されたプロセスには、当然"人"が組み込まれていました。一定の品質を保つには、プロセスの中で最も可変要素となる"人"をいかに均質に維持するかが大切です。つまり良い意味で「金太郎飴」の考え方が必要でした。従って新入社員に求められることは、いかに早く企業人として先輩と同じ"人"になるか、ということです。OJT(On the Job Training)が重要視されていた所以です。この時代はこれが日本の強さであり、人財育成の方向感でした。
時代は変わり21世紀、22世紀まであと87年の現在、グローバル社会と言われ多様性がベースとなりダイナミックな変化が当たり前となりました(ITがこの複雑な社会を加速させてしまったのですが・・・)。企業が市場を予測することが困難となりました。そもそも企業人は同時に生活者として市場を構成するひとりです。変化がゆっくりであった時代は、ライフスタイルのばらつきも小さく、自分のニーズは市場全体のニーズと大きく異なることは希でした(当然そうではない人もいましたが・・・)。ですから、企業の中の"常識"は社会の"常識"と大きく変わることもありませんでした。自分のライフスタイルを見れば予測できたのです。現在、入社後2~3年目の人が、「今年の新入社員が何を考えているのかわからない!」、まして上長となる年代の人からは「宇宙人!」・・・。この新入社員に対する感覚が社会や市場を見る感覚そのものとなっています。
企業文化は大切です。企業の中の"常識"は過去の人の常識がベースとなっています。これは大切な企業の価値であり財産です。しかし、社会の変化や時代の進展、技術の進歩などを踏まえて、「変えてはいけないもの」、「変えていいもの」、「変えなければならないもの」を見極めることが重要です。この見極めに新入社員が大いに役立つのではないでしょうか。 特にITに関わる市場は、若い人たちの感覚が数年先の社会を牽引する種となっています。IT人財に求められることが、知識・技術だけでなくそれらをどう活用するのかという人間力まで及んでいる状況では、「変えていいもの」、「変えなければならないもの」に対してスピード感ある対応が求められます。
毎年4月企業の中で最先端の社会感覚を持つ人が出現します。新入社員です。企業の中でわからなかった社会感覚の"解決の種"を持っている人たちです。新入社員がまだ企業人として馴染んでしまう前に「人の入れ替えという側面の新陳代謝」だけではなく「企業文化や常識という蓄積価値の新陳代謝」のために働いてもらう・・・。 片方向の新入社員教育だけではなく新入社員から旧人も学ぶ機会と捉えた双方向の"学ぶ場と時間"として、旬が短い新入社員の価値を最大限活用しないともったいないのではないでしょうか。
技術士(電気・電子部門)
株式会社 日立アカデミー
主幹コーディネータ
一般社団法人 人材育成と教育サービス協議会(JAMOTE)理事
日立製作所でシステムエンジニアリングの経験を経て、2009年に日立インフォメーションアカデミー(現:日立アカデミー)に移る。企画本部長兼研究開発センタ長としてIT人財育成に関する業務に従事。2011年以降、主幹コーディネータとしてIT人財に求められる意識・スキル・コンピテンシーの変化を踏まえた「人財育成のための立体的施策」立案と、 組織・事業ビジョンの浸透、意識や意欲の醸成などの講演・研修の開発・実施を担当している。
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